4人家族に襲った水難の怪異 1/2
今、怖い夢を見て、
目が覚めてしまいました。
ほとんど真っ暗な広い場所で、
ベッドに横たわって金縛りみたいに
動けませんでした。
周りを見渡す事も
出来ずにいたのですが、
微かに体の下の方から
水が波打つような音が聞こえていて、
遠くから水を踏むような足音が
近づいて来ました。
ずいぶん遠くなのですが
少しずつ近づいてきて、
物凄く怖くなって目を閉じたところで
目が覚めたのです。
ですが・・・、
この夢に関して思うところがあるのです。
この話はSさんという人が体験した話で、
私はSさんと付き合っていたN先輩から
又聞きしたものなので、
あやふやな部分や、
うろ覚えの部分もあるのですが、
N先輩の日記の文章から、
なるべくまとめてみました。
事の始まりはSさんが小5の時に、
一家で引っ越してからの事。
Sさんの家族構成は、
両親と弟とSの4人。
兵庫県の4人で住むには少し狭い
アパートに越してきたそうです。
狭さの他には何の変哲もない
アパートだったのですが、
どうにも水まわりの調子が
悪かったらしく、
水を流すとゴボボボボッと
詰まったような音がして、
そうでない時でもグチャグチャと、
肉みたいなものが詰まり合うような
音がしていたそうです。
それでも1週間ほどは何も起こらずに、
排水溝も業者に点検を依頼していたのですが、
ある夜、
洗面所で歯磨きをしていた弟が、
急に悲鳴を上げて家族の居る部屋へ
逃げて来たそうです。
泣きじゃくる弟をなだめて
何があったのかを家族が聞くと、
洗面台の鏡に、
ずぶ濡れの髪の長い女が
映っていたとの事。
「そんな馬鹿な事があるわけない」
と家族全員で洗面所に行くと、
そんな女は何処にも居なかったが・・・
洗面台の下には長い髪が数本、
散らばっていたそうです。
落ちていた髪は以前の住人が
しっかり掃除しておらず、
子供の事だからタオルか何かを
人だと見間違えたんだろうと、
誰も気にしていなかったのですが、
その日を境におかしな出来事が
頻発するようになったそうです。
水を張っていないはずの浴槽から
排水する音が聞こえたり、
例のグチャグチャという音が
いつまでも聞こえてきたり。
やがてはSさんや両親も、
鏡に映る女の姿を見る事になり、
大家さんにも「何かおかしい」
と相談をしたものの、
「そんな曰くは無い」
と言う事で、
奇怪な音に怯えて不安定な生活を
送る毎日だったそうです。
そんな生活が続いたある日。
アパートに居られなくなるような
決定的な事が起こりました。
いつも通り、母親が風呂場の
掃除をしていた時のこと。
どうしてもグチャグチャという音が気になり
排水溝を覗き込んだところ、
その奥には大量のナメクジが
蠢いていたそうです。
悲鳴を押し殺し、
なおもその奥を覗き込んだ時、
なんと、
奥の奥から覗き返す目が見えて、
母親は大声を上げながら、
半ば錯乱状態で父親の職場へ電話をし、
すぐに帰って来るように言ったそうです。
そのあまりの脅え様に、
これはおかしいと、
父親も急遽、家に向かい、
その間30分ほど、
弟とSさんと母親は
身を寄り添うようにして、
ベランダ側の窓の前で、
父親の帰りを待っていたそうです。
やがてゴボゴボという音の後に、
水を吸った『何か』が床に落ちるような
ドチャッという音がして、
足音のようなそれが近づいて来た頃、
玄関のドアが勢いよく開かれました。
息を切らして家に着いた父親は、
3人の姿を見ると、
何が起こったのかを確かめるように、
母親の抑止も聞かずに風呂場へ直行しました。
そしてすぐに小さな悲鳴が起こり、
「何だこれは・・・」
と父親が呟いたそうです。
3人は怖がって見ようとしませんでしたが、
後から聞いたところによると、
浴槽には溢れんばかりに水が張られ、
その表面をおびただしい量の髪の毛が、
黒く埋め尽くしていたそうです。
あまりに恐ろしくなった両親は、
その日は荷物もまとめずに、
少し離れた場所に別のアパートを
借りるまでの数日間、
近くの親戚宅に居候することにしました。
荷物の回収や配送は業者に全て頼み込んで、
やっと安心出来るかと思いきや、
それだけでは終わりませんでした。
その恐怖から開放されて、
数ヶ月後の事。
夏の暑い日に
海へ遊びに行った弟が、
波にさらわれ溺れてしまい、
亡くなったそうです。
そして、
その後を追うかのように、
両親もまた数日後、
海岸線を車で走っている時に
事故か自殺か、
ガードレールを突き破り、
海に転落して亡くなり、
Sさんはたった一人になってしまいました。
それからのSさんの住むところについて、
親族会議のような形で話し合った結果、
親戚宅に居候していては
気を遣ってしまうし、
家族の事を思い出して
辛いだろうということで、
母方の実家に祖母と同居
する事になったそうです。
同居し始めた頃は
塞ぎ込みがちだったSさんも、
優しい祖母と暮らしていくうちに
少しずつ元気を取り戻し、
N先輩と付き合い始めたことで、
より一層明るくなりました。
しかし、
人並みの中学生活を送れるようになった、
中3の秋。
またしてもSさんに絶望が襲ったのです。