ユウレイ君

 

高校2年の時、

 

クラスで『ユウレイ』と

陰であだ名される男子がいた。

 

まんまなあだ名の通り、

彼は非常に影が薄く、

 

オカルトに傾倒していて、

 

同様にオカルト好きな僕とは

よく話が合ったけれど、

 

ユウレイ君が僕以外の人と親しげに

話している所は見なかった。

 

まだ未成年の酒類販売の規制が

甘かった当時、

 

僕らダメ学生グループは、

 

何か事あるごとに学校の近くの海で

深夜の酒盛りをしていた。

 

けれど、夜の海の景色は、

僕だけ他のみんなと少し違っていた。

 

その海では毎度と言ってもいい位、

そう遠くない沖に黒い人が立っていた。

 

時には一人、

時には複数で。

 

いつも見るので僕の恐怖は薄れ、

話のネタにすらなっていたけれど、

 

みんなが酔っ払って

裸で海に入っても、

 

僕は流石に黒い人が怖くて

海には入れなかった。

 

ある日、

 

誰かがユウレイ君も呼ぼう

と提案した。

 

怖い話要員としてだろう。

 

唯一仲の良い僕がユウレイ君に、

 

みんなで海で飲み会しないかと

尋ねると、

 

二つ返事でOKしてくれた。

 

正直、意外だった。

 

夜の海でそれぞれ酒を持ち寄って、

待ち合わせする約束だった。

 

ぼちぼち集まり始め、

ユウレイ君もやって来た。

 

彼が沖の方を見た時、

 

表情が引き攣ったのを

僕は見逃さなかった。

 

最初にこの夜の海に来た時の僕も、

こんな顔をしていたのだろう。

 

宴が始まり、

 

ちらちら海の方を見ながら

黙り込んでいたユウレイ君も、

 

酒の力か次第に口数が多くなり、

怖い話から下ネタまで披露した。

 

他のみんなは、

 

ユウレイ君が話せる奴だった事が

判明したのが嬉しいみたいで、

 

普段よりもテンションが

高くなっていた。

 

誰かが例によって脱ぎ出して、

続いてみんな海へ駆け出した。

 

呆然と立ち尽くすユウレイ君に、

 

無理しなくてもいいよ、

と言おうとしたけれど、

 

次第に彼も服を脱ぎ出し、

海へ駆け出した。

 

驚いて僕はずっとそれを見ていた。

 

彼の最初の態度から察するに、

黒い人影が見えてないはずがない。

 

暫くして海から上がってきた彼に、

こっそり話しかけた。

 

「アレ見えてるんだよね?」

 

彼は、手形のアザが付いた

足首を見せながら言った。

 

「幽霊に何かされるよりも、

 

ユウレイのように過ごす方が

よっぽど恐ろしいよ」

 

後に人気者になるユウレイ君が、

肉体を得た瞬間だった。

 

まぁ嘘だけど。

 

(終)

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