銭湯で知り合ったおじいさん
これは、あるおじいさんと知り合ったことによって不思議な体験をした話です。
私は妻と別居していた時期に、古い木造アパートに住んでいました。
もう離婚寸前でした。
そしてそのアパートには風呂がなかったので、いつも銭湯へ行っていました。
帰宅が遅かったので閉まる間際が多く、その時間にいつも来ているおじいさんと顔見知りになりました。
「ありがとう。仲直りしなさいよ」
おじいさんは妻に先立たれ、子供も離れて暮らしているとの事。
私も別居の事情を話したりしました。
銭湯帰りに近くの居酒屋で一緒に飲む日もありました。
いつしか、そのおじいさんが銭湯に来なくなりました。
名前は聞いたけれど、家の場所が大まかにしか分からず。
病気にでもなったのか?と心配していました。
ある日、いつもと同じように閉まる間際に銭湯に入りました。
客は私だけ。
そして湯船に浸かっていると、おじいさんの声で「ありがとう。仲直りしなさいよ」と聞こえました。
びっくりして銭湯を出て、おじいさんに聞いた家の付近を探しましたが、見つかりません。
次の日、駅から帰る途中、葬儀屋の前を通りました。
目をやると、あのおじいさんの名前で葬儀をしています。
びっくりして中の様子を伺うと、あのおじいさんの遺影がありました。
銭湯でお付き合いがあったので、と線香をあげさせていただきました。
しばらくして、離婚寸前だった妻が私に会いに来て、「夢で知らないおじいさんに、あなたと仲直りするように言われたから、せめてもう一度お話合いをしましょう」と言われました。
それが和解に繋がり、今現在は妻と仲良く暮らしています。
(終)