あきちんと呼ばれていた謎のおっさん
俺の小学校には、授業の3時間目ぐらいに校門に現れる、通称『あきちん』という、黒い帽子にジャージを着た謎のおっさんがいて、ソイツは必ずその時間になると校門で踊っているんだ。
しかも、毎回同じ踊りで、毎回同じ場所。
手を上下に振りながら、首をめちゃくちゃに振っている。
先生達も知っていた。
小学校に入った時は皆で楽しんで見ていたんだが、そのうちに慣れて皆も気にしなくなってきた頃のこと。
俺は皆と縄跳びで遊んでいた。
当時はリズム縄跳びと言って、ラジオに合わせて縄跳びを飛んでさらに上級を目指す、というのが流行っていたんだ。
ある日、肝心の縄跳びを学校に忘れた。
土日だったので先生は一人しかおらず、その先生と二人で教室に入って縄跳びを取る時に外を見たら、何故か校庭にあきちんがいた。
いつもの校門ではなく・・・。
すると、あきちんと目が合ってしまった。
初めてあきちんの顔を見た瞬間、身震いした。
何故なら、顔が真横になっていたからである。
次の瞬間、あきちんが思いっきり走り出して、俺達がいる校舎に向かって来た。
が、よく考えると、先生が俺を校舎に入れた時、校舎の玄関の鍵は開けたままだった。
小学生だった俺は腰を抜かして、先生にすがりついた。
先生もびっくりしたらしく、すぐさま近くにあった先生用の1メートル定規を持って、廊下を出て階段を下りた。
すると、バタバタと階段を上ってくる足音が聞こえた。
「隠れていろ!」
そう言われたので、壁際に急いで隠れた。
あきちんを待つ先生の姿は、ヒーローそのものだった。
「○○! 俺がいいって言うまで、そこから動くんじゃねぇぞ!」
そう言われ、先生の神々しさにドキドキしていた。
足音もバタバタしなくなって数分経ったが、何も気配が無い。
階段を覗くと、先生もバタバタする足音も無かった。
と、その瞬間、「○○、もう出てきていいぞ」と聞こえた。
しかし、先生の声ではなかった。
期待から一気に恐怖に変わった。
数分間、その場で恐怖に震えていたが、今すぐここを出たいという気持ちと、あの声の恐怖が入り混じった。
ついに決心した俺は、階段まで一気に走った。
すると、廊下からバタバタと足音が追いかけてきた。
もう怖くて怖くて、とにかく走った。
無我夢中で。
玄関を出てすぐ校門まで走ると、もう足音はうしろから聞こえて来なかった。
ぐしょぐしょに泣きながら校舎を見ると、俺の覗いた教室からは、先生とあきちんが一緒に顔を出していた。
後日、その先生は職員室にいた。
それ以来、もう先生と話すことも出来ず、顔も会わせるのが嫌だった。
先生はその事件から一週間後に、教師を辞めてどこかへ行ってしまった。
あきちんもそれ以来、見ていない。
もう、あの事を思い出したくない。
色々と謎が多すぎる。
未だにあきちんの顔を思い出すと、背筋が凍る。
こっちに来るような気がして・・・。
(終)