怪物に襲われた登山サークルの怪

山小屋

 

俺が中学の頃、

国語の先生から聞いた話。

 

先生が大学時代の話で、

 

当時先生が片想いしていた子が

登山サークルに入ったそうだ。

 

そしてある時に彼女から、

こう頼まれたそうだ。

 

「ちょっと人数が足りないから、

登山に参加してくれない?」

 

先生は一も二もなく飛びついて、

F岳登頂に加わった。

 

そして当日。

 

素人だからと、

少し心配していた先生だったが、

 

他のメンバーのサポートもあり、

順調に登って行けたらしい。

 

しかし、

 

7合目まで来たあたりで

突如に空が曇り始め、

 

いくらもしないうちにパラパラと

小雨が降りだした。

 

一団は、少し早いが

今日は切り上げることにし、

 

一合毎にある近くの小屋に避難した。

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小屋の中で起きていた恐怖とは・・・

食ってダベってしている間に

夜も更けていき、

 

22時頃に就寝の流れとなったそうだ。

 

サークルの連中は流石に慣れたもので

すぐに熟睡したが、

 

先生はそうはいかず、

なかなか寝付けなかったらしい。

 

しかもすぐ側には、

 

憧れの彼女が無防備な寝顔を晒して

スヤスヤ寝息を立てている。

 

そうやってしばらくぼーっと起きていると、

尿意をもよおしてきたそうだ。

 

小屋の外に出た。

 

小屋の周辺では見られる可能性があるからと、

少し怖いが林の中に入ってすることにした。

 

数分後、

 

用を足し、

小屋に向かって歩いていると、

 

突然、小屋の方からドタバタと走り回る音や

甲高い悲鳴が聞こえてきたという。

 

ギョッとして小屋まで急いで走ると、

 

中で何かが起きているらしく、

窓から逃げ惑う様子のメンバー達が見えた。

 

先生が窓に近寄って覗き込むと、

 

中にはメンバー以外の何者かが侵入して、

彼等を追い回していたそうだ。

 

小屋内は暗かったが、

 

その何者かだけが明らかに容貌が

異様だったから分かったという。

 

全身真っ黒の毛むくじゃらで、

 

目が金色に光り、

赤い歯茎が剥き出しになっていた。

 

さらに目を凝らすと、

床に倒れた人影も。

 

先生はあまりの恐怖に

そのまま逃げ出しそうになったが、

 

なんとか踏み止まり、

 

近くに落ちていた棒切れを持って

扉に向かった。

 

しかし、扉は鍵がかかっている様子で、

押しても引いてもビクともしない。

 

焦った先生は窓に移動し、

ぶち破って入ろうとした。

 

その時、

 

窓が中から打ち割れて、

誰かが外に吹っ飛んできた。

 

駆け寄ってみると、

 

あちこちから血を流し、

息も絶え絶えで、

 

「××(片想いの子)が・・・

××が・・・」

 

と、うわ言のように繰り返していた。

 

それを聞いて、

先生はハッとした。

 

そう言えば、

さっきあの子の姿が見えなかった・・・

 

先生は割れた窓に走った。

 

さっきまでの喧騒は、

いつの間にか止んでいた。

 

小屋の中は凄かったらしい。

 

今でも時々夢に見るそうだ。

 

あちこちに黒い血が飛び散り、

腕だの足だのが散乱していたという。

 

そして、そのグチャグチャの真ん中に、

しゃがみ込むグロテスクな影・・・

 

ついさっきまで追いかけ回っていたのに・・・

 

先生はこの世のものとは思えない状況に

呆然自失して、

 

窓の側から動けなかった。

 

先生の視線は、

 

背中を向けて何かを咀嚼している怪物に、

釘付けになっている。

 

そのまま地獄の時間が流れ、

怪物はついに振り返った。

 

その形相たるや、

形容を絶するほど凄まじく、

 

それを見た瞬間、

先生は魔法が解けたかのように走り出した。

 

暗い林に向かって全速力で。

 

「ウオオオオォォ!!」

 

もの凄い叫び声が聞こえて、

怪物が外に飛び出してきた音が伝わる。

 

先生は涙やヨダレを垂れ流しながら、

無我夢中で走ったそうだ。

 

しかし、

怪物の気配は間近に迫っている。

 

絶望が脳裏をよぎった刹那、

あることを思い出した。

 

『雪男や熊に襲われた時は、

下に向かって逃げれば良い』

 

と、本で読んだことを。

 

先生は林の斜面を飛び下りるように走った。

 

何度か転んだが、

すぐ跳ね起きて走った。

 

そのうち、後ろの気配が

段々と遠ざかっていった。

 

だが先生は、

その後も足を止めずに走り続け、

 

なんと麓まで行ってしまったらしい。

 

翌日、警察隊が小屋に到着した時には、

怪物の姿は無かった。

 

一団のメンバーは一人を除いて、

全員の死亡が確認された。

 

中には、

身体の半分以上が無い人もいた。

 

しかし、

彼女だけは見つからなかった。

 

血も検出されなかったそうだ。

 

その後も、

今に至るまで行方不明だという。

 

脱線話が得意な先生だから、

どこまで本当かは怪しいが・・・

 

(終)

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