登山ですれ違った熊
高尾山に登ったときの話です。
高尾山に登るには
ケーブルカーやリフトがありますが、
まぁ僕は歩いて登ったわけです。
下山してくる人は、すれ違うときに
軽く挨拶をしてくれます。
まだ朝の8時頃でしたから下山者は少なく、
半分ほど登っても1人しかすれ違いませんでした。
やがて中腹にある見晴台に到着し、
5分程度休憩を取りました。
上の方から人が下りてきました。
かなり急いでいました。
どうも様子がおかしい。
なにか恐ろしいモノでも見たような
引きつった顔で1人でなにか叫びながら
走り去っていきます。
「熊だ~熊が出たぞ~」
はぁ?
熊なんて八王子にいるわけがありません。
わけのわからんヘンな奴はほっといて、
さらに登山を続けました。
やがて頂上に到着。
平日だったからか
先客はまだ1人しかいませんでした。
背の低い、見覚えのある顔。
レオナルド熊さんでした。
そう、さっきの変人は
彼のことを言っていたのです。
そういえば最近あまりテレビに出ないけど、
ヒマなのかなとか思いながらも、
「どーもー」とか言って会釈をし、
「良い天気ですね」「どっからきたの」などなど、
2,3分よもやま話をしました。
それからしばらく熊さんに、
あの独特の訛りで解説してもらいながら
一緒に景色を眺めていましたが、
僕が缶ジュースを飲み干すほんの数秒のうちに
熊さんはどこかへ居なくなってしまいました。
なんだか不思議な人でした。
うちに帰って、嫁に
「レオナルド熊と会ったよ~」
と自慢げに言うと、
嫁は怪訝そうな顔をしてこう言いました。
「はぁ?何言ってんの?
レオナルド熊なら先週死んだじゃん」
(終)