迷宮入りした惨殺死の真相
うちの近所には、
主婦業の傍ら手相も見ているという
おばさんがいた。
“御狐様の御告げ”と称するその占いは、
なかなかよく当たると評判で、
遠方からも少なからず人が訪ねて来ていた。
・・・だが、
そのおばさんは決してその占いを
“商売”にしようとはせず、
謝礼なども頑として固辞し続けていた。
そんなおばさんの人柄を頼って
訪ねて来る人も多く、
おばさんの家からは常に誰かしらの声が
聞こえて賑やかだった。
そんなある日のこと、
そのおばさんが自分の家の中で
“惨殺”されているのが発見された。
一体誰が・・・?
たまたまその日は珍しく客もおらず、
翌日に訪ねて来た近所の主婦が
遺体の第一発見者となった。
その主婦の証言と警察の検分によると・・・
おばさんは普段から占いやお客さんを
もてなすために使っていた、
応接間の真ん中で死んでいた。
家の中は特に荒らされた様子はなく、
金銭が取られた形跡もなかった。
ただ、おばさんの身体の前半分が
鋭利な刃物で抉(えぐ)り取られるという、
凄惨な殺され方だったという。
しかし・・・
不思議と血はあまり飛び散って
いなかったそうである。
もう一つ奇妙なことは、
おばさんの周りには無数の何かの
“獣の毛が落ちていた”ということだ。
おばさんはどちらかというと
生き物の類が苦手な人で、
大人しい小動物にすら、
決して近づこうとしなかった程だった。
そんなおばさんだから、
当然生き物など飼っていなかったし、
過去に飼っていたという話も聞かない。
ところが警察のその後の調べで、
おばさんの家の二階の押入れの中には、
生き物を飼っていた形跡が発見されたのである。
その生き物によって殺されたのではないか?
・・・と疑う向きもあったが、
ああいった風に人間を殺すのであれば、
相当の力と体躯を持った、
※体躯(たいく)
からだつき。体格。
例えば熊かそういった猛獣でなければ
まず無理であるとのことだ。
当然、民家の押入れに隠して
育てられるような類の生き物ではない。
では一体誰が?
・・・結局、
事件は迷宮入りとなってしまった。
身内が少なかったおばさんの家は
ほどなくして売りに出されたが、
そういった事件の影響もあって
なかなか買い手が付かなかった。
長い間その家は放置され、
そして荒れ放題となっていたが、
やがて取り壊され、
とうとう更地にされてしまった。
そして・・・
どういう経緯かは分からないのだが、
数年前に更地になったその場所へ、
“お地蔵様の祠”が建てられることとなった。
すっかりお地蔵様の広場となったその場所で、
今年も『地蔵盆』が催される。
(終)