裏山で見てしまった恐ろしい集団 2/2
さっきまでノリノリだった先輩も、さすがに顔が真っ青で、硬直している俺達に「逃げるぞ!」と言うと、俺達を後ろから追い立てるように走り出した。
俺達が走り出すと、そのおばちゃんも物凄い形相のまま追いかけて来た。
走っている最中に気付いたが、おばちゃんは走りながら何かを叫んでいる。
内容は殆ど聞き取れないが、言葉の節々に「ソーカツ」もしくは「ソーカン」と言っている事だけは判別できた。
が、意味はよく分からない。
どれくらい逃げただろうか。
大学や民家の明かりが見えるようになった頃、もう追って来ていないのではないかと、俺は後ろを振り向いた。
すると、先輩が必死の形相で走ってはいるが、その後ろには誰も居ないように見えた。
俺は息を切らしながら先輩と田中と松本に、「もう追って来ていないみたい」と途切れ途切れに言うと、体力が限界だった事もあり、その場にヘタリ込んでしまった。
先輩も田中も松本も同じように座り込むと、先輩が「アレ、幽霊とかじゃなく人だよな?」と自分に言い聞かせるように訊いてきた。
「人なんだろうけど・・・あれは普通じゃないっすよ」と田中が返した直後、俺達の座り込んでいる場所の後ろの藪からガサガサッと音が鳴り、僅かに人影が見えた。
のちに大量に見つかったものとは・・・
あのおばちゃんだった。
しかも、それだけではない。
後ろに少なくとも『あと4人の人影』が見える。
おばちゃんは1人ではなかった。
おばちゃんは相変わらず物凄い形相でこちらを睨み付けている。
さらに後ろの方の人影の内のおっさんっぽい人が、「君たち、どこまで見てた?危害は加えないからちょっと話をしようか?」と喋りかけてきた。
口調は平和的なのだが、明らかに声は悪意に満ちている。
俺達は本能的に「このままここにいたら殺される・・・」と感じ、目配せをすると先輩がおばちゃん達の集団に掴んだ砂を投げかけ、それを合図にまた全力で逃げ出した。
山の坂道を転げるように走り抜け、大学の構内へ逃げ込むと、松本がどこかに電話をし始めた。
警察に電話していたらしく、しばらくするとパトカーがやって来た。
警官に事情を話し、何度か無線でやり取りをした後、詳しく事情を聞きたいという事で俺達はパトカーに乗って警察署へ行く事になった。
警察署である程度の事の成り行きを話した。
だが、これで終わりかと思えば、「もう一度詳しく事情を訊きたいので、もう少し居て欲しい」と言う。
俺達は警察署で朝まで待たされた。
そして朝になると、今度はやたらガタイの良い私服警官が2人やって来て、俺達ひとりひとりにまた詳しく事情を訊いてきた。
俺はさすがに不安になり、私服警官に「俺達なんかヤバイ事しちゃってるんですか?」と訊くと、警官はにっこり微笑んでから、「君達は大丈夫だよ。ちょっと念の為に詳しく事情を訊いているだけだから昼には帰れるよ」と言ってきた。
警官の人が言った通り、俺達は昼頃には帰って良い事になり、連絡を受けたらしいゼミの教授が車で迎えに来てくれた。
教授に色々と訊いてみると、教授も事情はよく知らないらしいが、どうも例の裏山で警察が『山狩り』をしている最中らしい。
先輩が、「あの集団は指名手配犯か何かなんですか?」と教授に訊いたが、その辺りも良く知らないとの事だった。
だが、明らかに大事(おおごと)になっているようだった。
その後、俺達は警察に再度呼ばれることも無く、あの集団にまた出会うことも無く、誰も事情を教えてくれないので詳細も分からずいたのだが、事件から3ヶ月ほど経った頃に少しだけ情報が入ってきた。
どうもあの建物、何かのカルト集団の『儀式の場所』になっていたらしいという事と、警察の捜査の結果、あの辺りから『大量の動物の骨が見付かった』という。
その後は事件らしい事件は無かったが、あの事件から一つだけ変化があった。
それは、先輩があの一件で懲りたのか、軽はずみに「探検に行こうぜ!」とは言わなくなった。
(終)