不可解な点が多い失踪事件
大学生の時、短期間ですが探偵事務所でアルバイトをしたことがあります。
まだパソコンが普及している時代ではなかったので、私の仕事は顧客データの書類整理と浮気調査などでラブホテルなどに潜入する際に付いていく程度の仕事しかありませんでした。
バイト期間終了日が迫っていたある日、私はある調査資料を手にし、あまりの異様さに私を雇ってくれている雇い主である探偵(元刑事)の社長に「なんなんですか?この事件」と訊くと、彼は不思議な話をしてくれました。
以下、探偵でもある社長がしてくれた不思議な話です。
結局は何も分からなかった
彼の元にある日、年の頃30歳前後の若い女性が現れました。
長距離トラックの運転手をしている夫が、東北へ向かう途中のドライブインで行方不明になったので捜して欲しい、と。
失踪事件の調査はよくあること。
社長は早速、彼女の夫がいなくなったというそのドライブインへ調査へ向かいました。
そのドライブインの経営者は、80以上になるおばあちゃんでした。
彼女の夫が元々そこを経営していたらしいのですが、夫が亡くなった後、そこを引き継いだのだとか。
長距離トラックの運転手御用達のようなドライブインで、デコトラが何台も入るような大きなトラック専用の駐車場がいくつもあります。
運転手は、そこの屋根付で扉付きの駐車場に車を止め、おばあちゃんのところに「○○番の駐車場に入った。○時になったら起こしてください」と言いに行くと、おばあちゃんがその時間にお茶のサービスと共に起こしてくれる仕組みになっています。
そこの駐車場の一つで、依頼者の夫は忽然と姿を消したのでした。
トラックは駐車場にあり、運転していた本人だけがいなくなっていたのです。
探偵である社長は、すぐ「おかしい」と思ったそうです。
場所は高速道路の真中。
トラック無しで、徒歩で一体どこへ行ったのか。
訝しむ彼に、おばあちゃんが「ああ・・・でもこれ関係あるのかしら?」と口を開きました。
「いやね、この件とはまるきり関係ないと思うんだけど、亡くなった主人から絶対に開けてはいけないって言われている駐車場があるのよ。だから普段は鍵を掛けて入れないようにしていたんだけど・・・」
別のトラックの運転手を起こしに行こうとしたドライブインのおばあちゃんは、その日、鍵を掛けて開かないようにしてある駐車場の扉が開いているのを不信に思ったそうです。
すると、そこには見慣れぬトラックが。
そのトラックは、自分の所に「○時に起こしてくれ」と何も言って来なかったトラックだったと言います。
それに、鍵が開くわけがない。
他の運転手にも訊いてみたところ、そのトラックが入る数時間前は確かに閉まっていたと証言がありました。
では、なぜ開いていたのか?
運転手はどこへ行ったのか?
探偵の社長は引き続き調査を行うことにしました。
元刑事という警察のコネクションも利用して。
数日後、失踪したトラックの運転手は見つかりました。
残念なことに亡くなっていました。
瀬戸内海の満潮になると沈没してしまう小さな隆起した岩の上で。
地元の漁師が見つけたそうです。
ターゲットが死体で見つかった以上、もう探偵のする仕事は終わりです。
しかし、亡くなった彼はたった数日で、しかも足も無いのに東北から瀬戸内海へどうやって移動したのか?
なぜ突然失踪したのか?
原因をどうしても追求したくなり、元刑事の肩書きを利用し、警察仲間に遺体の状況を問い合わせました。
すると、遺体は口から食道から胃から腸から、びっしりと貝類が未消化の状態で詰まっていたという情報を得ることが出来ました。
発見時、妊婦のように腹が膨らんでいたので、発見した漁師は水死体だと思ったそうです。
しかし、死因は溺死ではありません。
監察医の診断は「ショック死」でした。
亡くなった彼の体にびっしりと詰まっていた夥(おびただ)しい量の貝類はなんだったのでしょうか?
なぜ彼は、東北のドライブインから瀬戸内海の岩の上に、たった数日で移動が出来たのでしょうか?
さらにもうひとつ不可解な点がありました。
彼の体中には「無数の引っ掻き傷」が付いていたそうです。
それは、人間もしくは爪を持つ哺乳類に付けられたらしい傷。
結局は何も分からずじまいで、社長は消化不良の調査を終えて東京に帰って来たそうです。
(終)
この話は他のコーナーでも何度も読み返しているがなんとも荒唐無稽過ぎる要素が連なっている。でっち上げとすれば余りにも幼稚で見え見えの与太話で終わるところだが実際お蔵入りになっている説明不可能な未解決事件が意外と多いのではないだろうか。当事者のドライバーが何故そして何の為に忽然といなくなったのか。その前に青森の無く亡くなった駐車場の主人が何かを知っていたかもカギである。徒歩で消えた本人が数日で瀬戸内海までどうやって移動したのか(金があれば鉄道などを使うかヒッチハイクも不可能ではないが)とにかく商売物のトラックを捨ててまで失踪した動機が全く不明。更に発見後の物理的に不可解な遺体の様子。これは自殺とも他殺ともつかない稀に見る怪事件と言える。彼もあるいはミステリーゾーンの犠牲者になったのかも知れない。
高速道路に個人経営のドライブインがある不思議。
他のコーナーでも何度か読んだが実話とすれば稀に見る怪事件だ。第一に開かずの倉庫にたまたま立ち寄ったドライバーがどうやって入れたのか。第二に何故彼が突然瀬戸内地方に移動する必要があったのか。もっとも所持金さえあれば2日もあれば移動自体は可能なのだが。第三にその遺体の異様な状態。現場が海上の小さな岩場の上も不可解だが、殻付きのアワビやサザエなどそのまま呑み込むことなど物理的に不可能なことは子供でも分かる。第四に全身に残る奇怪な引っ搔き傷。外国の例だがある女性のお腹に数か月の赤子が突然出現した例もある。不運にも怪死を遂げた彼は何かに操作され異次元に引き込まれたのだろうか。既に故人であるその倉庫のオーナーが何か重要なことを知っていたのかも知れない。