万引きを繰り返していた者の結末 1/2
俺は中学生2年生の頃、同じクラスになった奴ら4人でいつもつるんでいた。
4人の共通の趣味は本好き。
いつも部活が休みになる日曜日には、4人のうちの誰かの家に行って本を読むことが習慣になった。
その中でも特に本が充実していたのはCの家。
Cは母子家庭だったがなぜか本はたくさん持っていて、部屋の天井まで届くほどの本棚を埋める勢いで毎週のように本が増えていた。
2番目に充実していたBもCには全く敵わなくて、そのうちみんなCの家に集まるようになった。
Cいわく、「叔父さんが本好きの金持ちで本を譲ってくれるので本がたくさんある」ということだった。
怨念によって殺された?!
最初は俺ら3人もその言葉を信じていたが、だんだんとCの本を集めるペースが尋常ではないというのが3人の共通認識になっていく。
最初のうちは1週間に3冊程度のペースだったが、エスカレートするようになると、俺らが欲しいと言った本が翌週に行った時にはもうあるなんてことも。
どれだけCの叔父さんは羽振りがいいんだよ、と思っていた。
次第に俺らの中では、「Cが万引き、もしくはそれに相当する悪い事をしているのではないか?」と疑うようになった。
それは家に来てくれなくなったBが嫉妬のあまり発したのが発端だったが、でもAが試しに欲しいと言った文庫本15巻セットがあった時に、俺らはCが万引きをしていると確信した。
次の週、俺らは約束の13時より早くCの家へ行くことにし、Cを動揺させボロを出させる作戦に出た。
予定通り9時に、「やることないからさあ居させてよ。昼飯おごるから」と頼み込んでCの家に上がった。
そして、Cの部屋に入った俺らは早速探索開始。
前の週と比べて15冊ほど増えていた本の中に、”あるブツ”が入っていないか徹底的に探し出した。
Cがお茶を持って部屋に入って来たと同時にAが発見。
「おい。これ、なんだよ?!」
AがCに語りかけた。
あるブツというのは、本の間に挟まっているスリップ。(市販される書籍の中に挟む二つ折りの長細い伝票)
普通、店で本を買った時に店員さんが抜くはずだ。
案の定Cは突然の俺らの来訪に慌てて、15冊のうち1冊だけスリップを抜き忘れていた。
動揺するC。
この時点でこいつが万引きをしていたことは目に見えて分かったが、往生際の悪いCは逃げ隠そうとする。
店が抜き忘れていたの一点張りで、なかなか己の罪を認めない。
でもBが、そこに止めを刺すものを見つけた。
「お前、これでもまだシラを切るつもり?」
Bが見つけたのは、ゴミ箱にあった大量のスリップ。
もうCは逃げられなくなった。
追い詰められたCは、「お前らがたくさんリクエストするから悪いんだろうが!」と逆切れ。
呆れ返った俺らは次段階の警察に通報することも面倒になって、Cの家から退散した。(後々知ったが、万引きは現行犯でないと逮捕が難しいらしい)
結局Cとは縁を切り、3人で中学卒業まで過ごした。
その後、頭の良かったBは進学校へ。
まあまあだった俺とCは中堅校。
バカだったAは工業高校にそれぞれ進学した。
そして高校時代に、うちの近所の書店が閉店した。
そこは俺が小さい頃からお世話になっていた書店で、おじさんが一人で切り盛りしていた。
そのおじさんがまた良い人で、新刊を内緒で値引きしてくれたり、処分する本を譲ってくれたりしていた。
そのおじさんが死んだのが閉店の理由。
すごくショックだったし、なによりおじさんにもう会えないのが悲しかった。
しかも、やり切れないのがおじさんは自殺だったこと。
遺書は見つからなかったそうだが、「おそらく万引きの被害も原因の1つだろう」ということになった。
おじさんは万引きを見つけても、買い取りだけで済ますこともあったし、警察や学校にも連絡しなかったと言っていた。
これは万引き対策としては最悪なんだ。
逃げた奴らに、「あの店は警察に連絡しない最高の店」という噂を広げられて、どんどん万引きが増えていく。
おじさんの悲劇は地元新聞で特集を組まれた。
万引き被害で店を畳む本屋というのは、皆が考えている以上に多い。
同じ頃、もう一つの事件があった。
Cが万引きで捕まって、高校から停学処分を受けた。
万引きしたのは本ではなくゲームだった。
しかも5人ほどのグループで。
「懲りずにまだやってたのかよ・・・」と、俺は呆れ返った。
その後、万引きの噂が広まったのでCは学校へ行かなくなったそうだが、俺は一つの疑念を抱くようになる。
普通、スリップというのは仕入れた本屋の名前が書いてあるが、中学時代にCの家で発見したスリップには例のおじさんの店名が書いてあったと思うようになる。
たまたま再開したBと話しても、やっぱりそうだった。
Cはおじさんの店から日常的に万引きをしていた。
これは、疑念から確信に変わった。
Cの家に押しかけて殴ってやろうかと思ったが、よく考えれば証拠が無いから下手したら俺が逮捕されるかも知れない。
結局、俺は襲撃を諦めた。