夜遅くに乗せた奇妙な女性客

タクシー

 

これは、タクシーの運転手をしている香川さんの体験話。※仮名

 

ある夜遅く、客を探して走っていると、手を上げている若い女性が見えた。

 

(こんな夜遅くに女性が一人で危ないなぁ)

 

そう思いながら彼女を乗せると、香川さんは妙なことに気がついた。

 

彼女の着ている服は、病院の患者が着ているようなものだった。

 

少し気味悪く感じたが、女性はボソボソと喋るように行き先を指示する。

 

「そこを右へ…」

 

「そこを左へ…」

 

路地を進むにつれ、ふとおかしなことに気がついた。

 

さっきから同じ場所をぐるぐる回っている。

 

冷やかしだと思って腹が立ち、「同じところばっかりじゃないか、降りてくれ!」と怒鳴り、女性を車から降ろしてさっさと立ち去った。

 

そして憎らしげに、「頭がおかしいんじゃないのか?」と呟くと、次の瞬間、バックミラー越しに物凄い形相をしたその女性が四つん這いで車を追いかけてきていた。

 

それも信じられないスピードで。

 

恐ろしくなった香川さんは必死に逃げたが、後日その出来事を同僚に話すと、ずっと前にその近辺にあった病院で火災があり、入院していた若い女性が焼け死んだことを聞いた。

 

その女性は煙で前が見えなかった為に、四つん這いになって病院の廊下を何度もぐるぐると這って逃げるうちに亡くなったという。

 

(終)

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