番犬ならぬ番霊付きの格安物件
これは、不思議というのか奇妙というのか、今でもよく分からない体験談だ。
10年くらい前のことになる。
俺は大学の4年間、親戚の不動産屋の紹介で、繁華街の雑居ビル屋上のプレハブに住んでいた。
プレハブなので冬は寒く夏は暑かったが、約18畳の部屋でシャワーも有り、駅から徒歩6分で月3万円の格安家賃。
だが、『変なモノ』を月に一度か二度見ることには困った。
だから安いんだよ
屋上の3分の1程をプレハブが占めていて、残りは給水タンクと庭のようになっていたのだが、その庭のような空間に夜中の2~3時頃になると変なモノがユラユラを踊っている。
それは西洋の幽霊のような、ぼんやり光る白いシーツを被った人型のモノがフワフワしているのだ。
こんな感じのシーツを被った幽霊のようなモノが、屋上で浮かびながらゆっくりと円を描く。
初めて見たのは、引っ越してから2週間ほど経った夜のこと。
非常階段から不審者が忍び込んだのかと思い、バットを持って「こらっ!」と声をかけたが、ソイツはこちらを振り向くと、じわーっと消えていった。
その瞬間、この世のモノではないと分かり、少しゾクッとした。
うちに泊まってソイツを実際に見た友人も二人いる。
一人は、夜中にトイレに起きた時に見たらしく、「どちらさん?」と声をかけたら消えた、と。
もう一人は、これが見たくて何度か遊びに来ていて、四度目に見たそうだ。
声をかけずに見ていたら、ソイツはずっと屋上を周っていて、友人がタバコに火をつけた瞬間に消えたという。
実害がないので怖くはなかったが、気持ちがいいものでもないので屋上に粗塩をぶち撒けてみたり、日本酒をぶち撒けてみたりと色々したが、効果はなかった。
これらの事実を親戚の不動産屋にも話してみたが、「だから安いんだよ。でも害はないだろ?」で終わる始末だった。
そのうち、ソイツが出てくる周期が『満月か新月の日』だと分かったので、その日は早寝していた。
これらのことを飲み屋で知り合った霊感の強いオッサンに相談してみたら、「それがいるから他のが来ない。ぐるぐるしてるだけで害がないなら放っておけ」と。
実際、そのプレハブに住んでいた4年間は、それまで年に数回あった金縛りが一度もなかった。
(終)