タクシーのルームミラーに映るもう一人の顔
これは、会社の同僚の山野さんが就職活動中に体験した奇妙な話。※名前は仮名
山野さんは友人と昼食をとった後、会社説明会に向かうためタクシーを使った。
友人が先に乗り込み、助手席の後ろに山野さんが座る。
走り始めて間もなく、友人が無言で山野さんにルームミラーを見るよう促してきた。
怖いと思いながらも、つい・・・
山野さんの位置からルームミラーを見ると、運転手の目元から鼻の辺りまでが見える。
さらには、運転手の顔にやや被るように、もう一人の『顔』が一緒に映り込んでいた。
友人にも同じ光景が見えているらしく、思わず二人で顔を見合わせる。
しかし、二人とも好奇心の後から恐怖心がついてくるタイプのようで、怖いと思いながらもつい観察してしまった。
そしてカーブに差しかかった時、運転手の視線はカーブの前方に移るが、映り込んでいる『顔』も運転手の視線とシンクロするかのように目がキョロキョロと動き、その白目の毛細血管までが見えた。
山野さんも友人も、その顔がどこから映り込んでいるのか知りたくて、後部座席からルームミラーに自分たちの顔を映しながら場所を探した。
すると、運転席と助手席の間の小物入れ(タクシーだとお金を載せるトレイが置いてある辺り)に座っている感じだった。
ルームミラーには映っているのに、その場所に手をかざしても何も手応えはなく、次第にそのタクシーに乗り続けることが怖くなった山野さん達は、途中で車を停めてもらい降りることに。
しかしその顔は不思議なことに、二人がどれだけ見ても性別が分からなかったという。
この話を聞き終わった後、私と山野さんの会話はこうだった。
私「山野さん達は、後ろの席からミラーを覗き込んでごそごそやっている間に、万が一その『顔』と目が合ってたら怖かったですね」
山野さん「それを今考えると怖いけど、あの時の『顔』は私達をまるで無視っていうか、運転手と一緒に運転に集中してる感じに見えたなあ。停めてもらった時も、運転手はこちらを振り返ってお金をやり取りしたけど、『顔』は前を向いたっきりだったし」
(終)