そのタクシー運転手の態度がとにかく酷い
自分にとってはかなり怖かった体験談です。
もう10年くらい前になりますが、私は都内の某新聞社に勤めていました。
仕事柄、帰宅が深夜に及ぶこともしばしばで、そういった時は契約しているタクシー会社に電話をかけてタクシーを呼んで帰るのが常でした。
ある日、やはり仕事の終わりが0時を過ぎ、いつものようにタクシーを呼んで乗り込みました。
ところが、そのタクシー運転手の態度がとにかく酷かったのです。
お客さん、私のこと覚えていますか?
行き先を告げても、一言も返事をしない。
ドアをいきなり閉める。
ラジオを大音量でガンガンかけて車を飛ばし、音量を下げてくれと頼んでも聞かない。
運転が下手で乱暴で、普段なら帰宅までの車中でウトウト出来るくらいなのに、その時は気分が悪くなるのを我慢しながら後部座席で踏ん張るという有様でした。
タクシーに乗る機会は多いけれど、こんなにも酷いタクシーに出会ったのは初めてでした。
無線で呼ぶのだからどんな運転手が来てもおかしくはないけれど、それにしても・・・という感じでした。
ようやく自宅マンションの前に車が着いて、タクシーチケットに金額を書き入れて渡したけれど、やはり何の挨拶もなく、乱暴にドアが開けられました。
自分も疲れて少々機嫌がよくなかったこともありますが、そこでブチっとキレてしまい、黙って『お客様カード(葉書大のアンケート用紙でタクシーセンターに届くもの)』を手に掴み取り、車を降りました。
その日のうちに、お客様カードにその日の状況と感想とを事細かに記入し、翌朝ポストに投函しました。
それから1ヵ月くらいが経ち、すっかりその事を忘れていたある夜、またいつもと同じく職場からタクシーを呼んで到着した車に乗り込みました。
「とりあえず○○町を目指して行って下さい。詳しい場所は近くなったら改めてお伝えしますから」と言い、運転手も一言「はい」とだけ答えました。(暗いので運転手の表情や様子は分からなかった)
妙に静かな車内でした。
ところが、なぜか車は○○町に入ってからも、私が説明するより先に自宅へとスルスル向かっていきます。
変だな・・・と思った時、運転手がバックミラーで私をチラチラ見ながら、「お客さん、私のこと覚えていますか?」と低く押さえた声で話しかけてきました。
私は「えっ?」と言うと、「お客さん、センターに私の苦情を言ったでしょう?」と運転手。
それで私は、あの時の運転手だった事に気づきました。
ちょうど自宅のマンション前に差し掛かり、車が止まりました。
私はともかくも「ここで結構です」とタクシーチケットを渡しました。
・・・ですが、普通ならそこで後部座席のドアが開かれるはずなのに、開かない。
すると、運転手が私の方にいきなり身を乗り出してきました。
「お客さんのハガキで、私はセンターに送られて1週間しぼられましたよ」(タクシーセンターはかなり厳しい懲罰的な指導をする事は聞いていました)
「毎日、毎日・・・。お客さん、私はね・・・私は・・・私は・・・」
運転手の声が震え、手もこちらに向けて震えています。
まずい!やられる!と思った瞬間、「どうも、すみませんでありましたっー!」と、運転手の絶叫と共にドアがいきなり開き、私は転げるように車から出ました。
タクシーが走り去るのをその場で見届けて、ようやく自宅に入ってからも、しばらく冷や汗が止まらなかったのを今も覚えています。
(終)