被爆者たちが語る「あいつら」とは一体?
これは、もう30年も前のことになるが、私が修学旅行の随行カメラマンをしていた時の話。
とある高校の修学旅行が広島で、当然のように平和教育で被爆者の高齢者が暮らす施設での聞き取りもあった。
そこで、一人の女性に被爆前の暮らしや被爆後の話を聞いていた女子生徒のグループに、レンズを向けてシャッターを押した。
タツジさん
話をしてくれるのは幾人かずつに分かれたお年寄り達で、体調や気分で話してくれない人もいたので、そういう理由だと聞いていた。
そんな中、穏やかに話す女性の後ろには険しい顔で黙って座る白髪の男性がいて、終始目を閉じたりしていたのを私は見ていた。
そして、女性に生徒の一人が「原爆が落ちて来るのを見ましたか?」というような質問をした瞬間に、それまで黙っていたその男性がいきなり口を開いた。
「あいつらが飛んでたんや!あいつらが飛ぶと悪いことが起きる!」
少し興奮気味に大きめの声を上げた。
穏やかに話していた女性は、「タツジさん、もうええから」と宥めていた。
その翌年、別の学校の研修旅行で長崎に同行した。
広島と同じ様な施設で同じように聞き取りをしていると、広島の時と同じ様な状況が起こった。
にこやかに生徒と話す女性の話を聞いていると、やはり不機嫌そうな坊主頭の男性が後ろに座っていた。
クリスチャンだと話す女性に、また一人の生徒が「原爆が落ちて来る瞬間を見ましたか?」というような質問をすると、「あいつらが降ってくるんだ!あいつらが降ってくるとエライことが起こる!」と大きな声がした。
声を上げたのは、後ろに座っていた坊主頭の男性だった。
クリスチャンの女性がそっと男性の膝を擦りながら宥めていた。
「もういいから。ね、タツジさん」と言いながら・・・。
その瞬間、私は広島のデジャヴかと思うほど同じ様な状況に寒気がした。
坊主頭の男性にそれとなく後で話を聞いたが、「あいつら」としか答えてくれなかった。
あとがき
広島のタツジさんは、84歳とネームプレートに書かれてあった。
長崎のタツジさんは88歳と聞いた。
広島のタツジさんは痩せ型の小柄な爺さんで、長崎のタツジさんは当時としては珍しかったと本人曰くの180センチの長身。
共に詳しくは話してくれなかったが、その「あいつら」を指すものは、アメリカ軍や鳥などではない何かで、何人もの人が見ていると言っていた。
(終)