原爆投下後のこの世ではない地獄の様子

これは、祖父から聞いた一番印象に残った怖い話。

第二次世界大戦の戦時中から戦後にかけてが青春だった祖父は、生まれつき足の向きがおかしくて、歩けはすれどよほどまともな運動は出来なかった。

そんなことから徴兵は免れて、広島で家族に養ってもらいながらなんとか生き延びていた。

ただ、戦争は終わったけれど祖父達のいた広島は、原爆の影響もあって本当に地獄だった。

よほど戦中だった頃の方が、生活面も安全面もまともなほど荒れていた。

場所が良かったようで被爆を逃れていた祖父は、破壊された電線の銅などを集めて生活を安定させていった。（はだしのゲンに似たような話があったので知らない人は読んでみてください）

その頃の話になるけれど、祖父はよく「影が無い人を見た」と言っていた。

夕方に一人で荷物を引いている時や、昼間や時間を問わず。

当時の広島は、被爆者の影が路面や壁に写り込んだ話がよく話されていたので、祖父は「被爆して影を置き忘れて死んだ人たちなんだ」と思った。

やけに青白い顔をしてぼんやり立っているその人たちは、本当に生きているみたいだった。

･･･というより、町のど真ん中で昼間から何もしないで立ち尽くしていても何の疑問も持たれないほど、食べ物も働く術ももたない生きた人間が多かったので、影の有無くらいでしか生きているか死んでいるか分らなかった。

祖父は往生の間際まで、「あの時代はとてもこの世ではなかった」と話していた。

そんなやり取りを思い出しながら、祖父の三回忌を迎えた。

（終）