どうしても辿り着けなかったあの場所に
これは、不思議な体験をした話。
私が中高生の頃、地元の低い山を仲間とよく歩いていた。
ちょっとしたアウトドアブーム(怪しい探検隊とか)の時代だったが、お金もなく、遠出も出来なかったので、身近な里山の未踏ルートを制覇しては悦に入っていた。
傍から見れば、単なる藪漕ぎだったかもしれないが…。※藪漕ぎ=山野をかき分けて進むこと
そんな折、見晴らしも気持ちも良い『草地の稜線歩き』に、不意に行き当たった。
例えて言うなら、千と千尋の神隠しのラストシーンにある草原に似た光景。※千と千尋の神隠し草原画像検索(Googleより)
そこから先は仲間の誰もまだ攻めたことがなく、非常に興味深かった。
ただ、日没まで引き返す時間を考えると、先に進むことは躊躇われ、「また後日に改めてアタックしよう!」ということで、その日は帰宅の途についたのだが…。
その一週間後、間違いなく近くまで来ているのに、あの場所にどうしても辿り着けない。
現在のように簡単に空中写真も手に入らなかったので、地形図では判断しがたく、結局あの稜線の場所は謎のまま、仲間たちはそれぞれの進路に進み、地元に集まる機会もほとんどなく時間だけが過ぎていった。
あれから四半世紀以上が経ち、私も地元から遠く離れた土地に根を下ろして暮らしている。
ある正月休み、穏やかな日差しの中で、退屈した我が子にせがまれるまま、お散歩と称する探検ごっこで住宅地界隈の丘陵地の散策路を歩いていた。
すると突然、あの日の光景が目の前に広がった。
標高はそう高くないはずなのに、360度の展望とカヤトの稜線。※ススキやスゲなど一部のイネ科の植物を総称してカヤと呼び、山中でカヤが広範囲に茂る場所をカヤトと呼ぶ
全く違う土地のはずなのに、どうしても辿り着けなかったあの謎の場所そっくりの光景が。
私は唖然として、ただ立ち尽くすしかなかった。
ただ単に似ている光景なだけだったかもしれないが、時空を飛び越えたような錯覚に陥った。
そして、久しぶりにあの頃の仲間たちに声をかけてみようかな、と思った。
(終)