思い出の場所に出る幽霊
中学の頃の俺は、あまり友達がいなかった。
だけど、一人だけ親友と呼べるくらいに仲の良い異性の友人がいた。
小学校からの付き合いで、お互いの家で一緒にご飯を食べたりするほど親しかった。
ただ、その友人は結構自分勝手なところがあって、そのせいであまり評判は良くなかった。
「その性格、直したほうがいいよ」と何度か言ったが、いつも「今さら直しても変わんないよ」の一点張りだった。
放課後や休日はよく学校の近くの丘にあるベンチと、雨宿りができる場所もある広場で遊んでいた。
その広場は友人が教えてくれたんだけど、他の学校の生徒が来ると、「ここは私の場所だ!出て行け!」などと、自分勝手で凄い形相で追い出していた。
それが問題となり、何度も先生に叱られているのを見たこともある。
「なんでそんなに怒ってるんだ?」と質問してみたら、「ここは私のお気に入りの場所だし、〇〇(俺)と遊んでるとこ邪魔されたくないから」とか、そんなことを言われたと思う。
しかし、その友人がある日、事故で死んだ。
いつも遊んでいる広場で足を滑らせて、転落死だったらしい。
そのことを聞いた俺は、ショックで学校に行かなくなった。
そして、ほぼ毎日その広場に足を運ぶようになった。
もしかしたらあいつに会えるかもしれない、そんなことを考えていたと思う。
いつもあいつの好きな食べ物なんかを供えたりしていた。
しばらくして、その広場は危ないということで立ち入り禁止になった。
行く場所もなくなった俺は、家に引きこもるようになった。
中3になっても学校に行かないのは変わらず、親を心配させたと思う。
たまに死んだ友人の親が家に来て、俺を励ましくれたこともあった。
自分たちが一番ツラいはずなのに…。
その後、なんとか高校に入ることはできた。
勉強は苦手だったからランクの低い高校だけど。
それでも体調不良で度々休むことがあったから、完全には立ち直れていなかった。
そんなある日、クラスの連中の会話の中で気になることを耳にした。
「▲▲中学の近くの丘にある立ち入り禁止の広場で幽霊が出る」
それを聞いた俺は放課後、もっと詳しく話を聞いてみた。
ほとんど接点のない間柄だったから驚かれたけど、話してくれた内容は、「夜にその幽霊が出てくるらしい。見た奴もいるって」ということだった。
俺は、『あいつだ!今なら友人に会えるんだ!』と思い、その日の夜、あいつの好きだった卵焼きをカバンに入れて広場に向かった。
立ち入り禁止の看板があったけど、無視して進んだ。
久しぶりに見る広場は雑草やゴミが目立ち、俺の知る広場とは夜の暗さと合わせて印象がかなり違った。
それに、しばらく待っていたけど、幽霊なんて出なかった。
あいつに会えると思ったのに…。
俺は落ち込んだ。
しかし、立ち入り禁止の看板を無視して広場に来たんだし、折角だから掃除ぐらいするかと、雑草やゴミを片付ることにした。
ある程度片付けた後、時刻も23時を回り、帰るかと思って歩き出した瞬間、急に背後から気配を感じた。
誰かいる!
もしかして、あいつか!?
そう思い、振り向こうとしたんだけど、なぜか振り向けなかった。
まるで金縛りに遭ったみたいに。
しかし、気配はどんどん近づいてきて、とうとう自分の真後ろに張り付いているぐらい近くに来ていた。
もしかしてあいつじゃないのか?
そう思い始めた時、いきなり後ろから体を締め付けられるぐらい、強い感覚がやってきた。
ただ、恐怖は感じない。
特に痛みもなく、締め付けられるというより抱きしめられるというぐらいの感覚だった。
しばらくするとその感覚は消え、金縛りみたいなものも消えていた。
今のは何だったんだ?
あいつだったのか?
そう思いながら家に帰った。
家に帰った後、カバンの中の卵焼きを出そうとしたら、なくなっていた。
あいつ、本当に勝手な奴だな(笑)。
そう思った。
きっと卵焼きはあいつが勝手に食ったんだなって。
そんなことが起きてから、広場に幽霊が出るなんて話は聞かなくなり、広場も何年かした後に新しく作り変えられて入れるようになった。
あの事故があったからか、人も人通りも少ないけど、今でもその広場は時々行くことにしている。
(終)