何もない山奥に積み上げられていた腕
これは、石じじいの話です。
石探しのために山の尾根付近の森を歩いていると、『手』が落ちていて驚いたそうです。
恐る恐るそれを山歩きの杖で探ってみると、雨ざらしになってボロボロになったマネキンの腕でした。
戦前後当時のマネキンですから、あまり出来の良いものではなかったでしょうけど、じじい曰く「リアルだった」と。
こんなところにマネキンの腕を持ってくる者はいるのか?
気を取り直して歩いていると、またあった。
今度はかなり新しいマネキンの腕。
グッと折り曲がっている左手だったそうです。
周りを見渡すと、木の棒の先に革手袋を被せたものが落ちていました。
これは何か?と思って注意して歩いて行くと、“森の中に『腕』がうず高く積み上げられていた”そうです。
まるで、塚のように。
その前に見かけたマネキンの腕や手袋で作った腕、木に彫り付けた手、布で作った腕のぬいぐるみのようなものが積み上がっていたと。
何かお祈りの場所か?と思って周りを調べてみましたが、祠のようなものはなかったそうです。
神社に物を奉納するというのはよくありますが、“こんな何もない山奥に腕だけ”とは…。
最近のものと思われるマネキンの腕もあったので、数日前にも人が訪れていたのでしょう。
そこから尾根をかなり歩いて山脈の中腹の村に下りたのですが、そこで『腕塚』について尋ねることは少し躊躇ったで黙っていたそうです。
遠く離れた村だったので、尋ねてもそこの人は知らなかったのかもしれません。
じじい曰く、「最初に腕を見つけた時はよいよたまげたで。くそひりかずきよったで。あがいなお祈りするんは聞いたとなかったい」と。
(終)