禍々しい家で生じた奇怪な出来事
これは、私が小学生の頃に住んでいた『家』の話。
場所は東京都町田市の成瀬。
私は現在32歳になるが、未だに忘れられない。
その家には父の転勤の都合で引っ越すことになった。
気のせいだったのかもしれないが、”ある道”を境に、なにか急に嫌な気分になったのが印象的だった。
その家は急な坂道を上りきったところにあって、4軒の新規分譲住宅だったが、そのうちの2軒から、私は“何かに見られている?”という感覚があった。
雨戸も閉まっていて、もちろん中には人などいない。
私は両親にそのことを話し、「線路側の2軒だけはやめてほしい」ということを伝えた。
しかし、両親が選んだのは私が嫌がっていたうちの1軒だった。
その家に入って感じたことは、表現は難しいが、空気が黒い。
入った瞬間に不快な気分にさせるというか、拒否されているような感じ。
結局、両親は私の制止も聞かずに、その家に入ることを決めてしまった。
当時の両親は共働き。
私は学校から帰っても両親が帰ってくるまでは外で遊び、誰もいない時はなるべく家にはいないようにしていた。
最初におかしなことが起こったのは、入居して初めての日曜日だった。
お昼時だったので、昼食を食べながら家族全員でテレビを見ていた時のこと。
庭にドサッと何かが落ちてきた。
見に行くと、そこには私のカバンが落ちていた。
机の上に置いてあるはずのカバンがなぜ…?
疑問に思って2階の部屋に行ってみたが、もちろん誰もおらず、家族は全員1階にいる。
不思議なことに、窓も閉まっていた。
おかしなことはさらに続いた。
夜中に2階の部屋で寝ていると、1階から上ってくる足音が聞こえる。
タンタンタンっと、早足で上ってくる。
その足音は部屋の前で止まると、また1階から上ってくる。
子供だった私は、怖くて扉を開ける勇気はなかった。
何度となくそれが起こったある晩、私は両親に叩き起こされた。
「どうしたの?」と聞くと、両親はこう言った。
「あんた達の部屋に誰か入ってこなかった?」
私が「なぜ?」と聞くと、「屋根を歩き回る音がする」と言っていた。
窓を開けて外を見ると、隣の旦那さんも明かりを点けて外を見ていた。
時間は夜中の3時頃だったと思う。
隣の旦那さんも、誰かが屋根を走っていると言っていた。
隣の家は、線路側の2軒のうちのもう1軒。
その晩はとりあえず眠ることにしたが、翌日に私と両親は、疑いようのないものを見つけてしまった。
私たちが見つけたものは、無数の足跡。
裸足の足跡が無数にあった。
その何日か後には、雨どいを上る音がした。
懐中電灯でそこを照らすと、やはり泥の足跡が付いている。
さすがに両親も怖くなったらしく、警察を呼んだ。
ただ、警察は何もしてくれず、「パトロールします」のみだった。
そうしてその家に住み始めてひと月くらい経った頃だと思う。
父に異変が起こり始めた。
顔つきが変わって、まるで別人のようになり、母に暴力を振るいだした。
その時の父の顔は、今思い出してもゾッとする。
まるで獣の顔だった。
その後、うちの家庭は離散状態になってしまった。
2年後、再びうちの家族は別の場所で暮らし始めたが、父は以前の父に戻っていた。
あの場所に何か居たのか?
未だにわからない。
家は新築で、そこで過去に何かあったという話も聞かなかった。
ただ、家の前にある坂道では、原因不明の事故が多発していた。
他にも、近所で焼身自殺した人がいたり、踏切で飛び込み自殺をした人がいたり。
実は先週、この家を20年ぶりに見に行った。
当時とは見違えるように開発が進み、町並みも全然変わっていた。
よく行っていた釣り堀も、よく遊んでいた空き地もなくなっていた。
でも、あの家はまだ残ったまま。
4軒あったうちの2軒は建て替えられていたが、問題の2軒はそのままだった。
自殺者の出た踏切も、そこだけ時代が止まっているかのように残っていた。
周りは新築の家ばかりなのに。
(終)