嫌な気を放つ若い男性の変貌の瞬間
これは、ある年の1月頃のこと。
いつもと同じように仕事を終え、そこそこ混んだ電車に乗り込んだ。
吊革を握り、ふと目の前の座席に座っている人に視線を向けると、なんだか嫌な気を放っている男性がいた。
まだ若い人だったが、全体的に覇気が欠け、目が虚ろの状態。
疲れているのかなという印象だったが、表情を見ると、やけに目がつり上がっている。
つり目でもここまでの人はあまり見たことない、そう感じるほどに。
そして、じろじろ見るのは失礼だと思い、視線を逸らそうとした時だった。
私の目の前で、その男性の顔が“狐の顔にすり替わった”のだ。
次の瞬間、さらに目がつり上がり、ニヤニヤと薄気味悪い目つきをこちらに向ける。
そして両方の口端が目の辺りまで一気に裂け上がり、私の目を凝視してニタリと笑った。
私はあまりの気持ち悪さに、声こそは出さないものの、やや後ろへ体が仰け反ってしまった。
ただ、その狐の目つきは、男性の目つきそのものだった。
電車が次の駅に停車すると、男性は電車から降りていった。
降りていく時には、狐の顔から人の顔に戻っていた。
あれが『狐憑き』と言われるものかはわからないが、二度と見たくないと思った体験だった。
ちなみに、それ以降その男性とは電車内で遭遇していない。
(終)