口に出して語ってはいけない恐ろしい怪談 1/2

懐中電灯

 

この話は誰にも話したことがありません。

 

長くなりますがとにかく聞いてください。

 

私は大学最後の夏に、

サークル仲間と伊豆大島へ行きました。

 

仲間の一人の実家が民宿をやっているので、

そのツテです。

 

初日二日と、

王の浜や弘法浜で泳ぎまくった後、

 

三日目は三原山をメインに

島の観光スポットを回りました。

 

その夜のことです。

 

相当疲れていましたが、

怪談話大会をすることになりました。

 

中心はもちろん地元のUです。

 

U含め6人で借りている大部屋に車座に座り、

午後10時過ぎくらいから始めましたが、

 

0時を回る頃には、

Uの話に引き込まれっぱなしでした。

 

地元ネタというのは、

はっきりいってズルい。

 

「ある人がトイレに入っていると・・・」

 

などという怪談は、

誰にでも当てはまる話とはいえ、

 

その分パンチ力に欠ける。

 

それに対して、

 

今来ている島の怪談なんて、

俄然雰囲気が違います。

 

そんなわけでゾクゾクしながら

Uの話を聞いていると、

 

一区切りついたところで

スイカでも食べてて~、

 

とUは中座しました。

 

30分くらいしてから、

半紙を持って帰って来ると、

 

「次の話はマジやばいぞ」

 

と言って、

 

明かりを消してから机の上に置いた

半紙を懐中電灯で照らしました。

 

「この話はな、

 

昔からこの辺りでは口に出したら

ダメだと言われていてな、

 

こうして紙に書きながら進めるのよ。

 

面倒だからいっぺんに書いてきた」

 

これはほんまもんだと、

直感しました。

 

しかし、

 

6人で囲むと逆さから読む人がいるので

読みにくいということになり、

 

「いいから口で話してよ」

 

と一人が言いました。

 

「いや、マジやばいんだって」

 

というUを宥めすかして、

 

怖いもの見たさで喋ってもらう

ことになりました。

 

私はちょっとビビりな方なので、

正直逃げたかった。

 

「責任持たんからな」

 

と言って、

Uはポツポツと語り始めました。

 

「昔、この島の北の漁港の辺りにな、

ゆきっていう名前の娘が住んでたんだと。

 

父親は漁師で、

 

母親はゆきが小さい頃に

海で溺れ死んでいた。

 

ゆきは飴売りをしながら

父の仕事も手伝う働きものだったが、

 

18の歳に重い胸の病にかかってしまった。

 

医者に助からないと言われ、

 

嫁入り間近だったゆきは

一方的に破談されて、

 

ついに発狂してしまった」

 

「ちょい待って!

それ、いつの話?」

 

と誰かが口を挟みました。

 

「さあ、たしか・・・

明治に入っての話だったかな。

 

とにかく、

 

発狂したゆきは一日中わけの分からないことを

ブツブツ言いながら歩き回るようになった。

 

哀れに思っていた周囲の人々も

次第に気味が悪くなって、

 

父親にあたるようになった。

 

父と子の二人暮しでは、

漁に出ている間は面倒を見てやれない。

 

療養所に入れる金もない。

 

父親も途方に暮れた。

 

そんなある日の晩、

ゆきは姿を消した。

 

次の日、

 

漁師仲間が前の晩に父の船に乗って、

海に出て行くゆきを見たと言う。

 

『月の明るい晩じゃったけ、

横顔がはっきり見えたよ』

 

なぜ止めてくれんなんだ、

と言う父に漁師仲間は、

 

『もう一人乗っとったが、

あれはお前さんじゃなかったのか?』

 

騒然となり、

漁師仲間も手伝って探すことになった。

 

やがて漁に出ていた仲間の知らせで、

沖の方でゆきの乗った船が見つかったという。

 

曳航されてきた船には、

ゆきの変わり果てた姿が転がっていた。

 

ゆきは一人であったが、

 

おそらくゆきを連れ出した誰かが

やったのだろうと言われた。

 

その者は、

ゆきと心中しようと沖に出たのか。

 

あるいは争って海に落ちたかのか。

 

いずれにせよ、

生きてはいまい。

 

そんなところに話は落ち着いたが、

内心誰もが思っていた。

 

『人の仕業ではない』

 

・・・と。

 

ゆきの首は捥がれていた。

 

・・・・・・それ以来・・きは・・き・・わたしは・・・・

じゃのいうとおり・・じゃのまつうなばらへ出た。

 

凪いだうみに手がのぼってきた。

 

とてもとても深いうみぞこからの白い手が

幾ほんものぼってきた・・・

 

(続く)口に出して語ってはいけない恐ろしい怪談 2/2

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