山で見つけたツルツルした丸い石が
これは、僕が子供の時に体験した奇妙な出来事。
家から自転車で30分くらいの所には山があり、小学生の頃の僕は、そこでいつも二人の友達と遊んでいた。
他に人が来ることもなかったので、僕たちだけの遊び場だった。
ただ、あまり上には登ったことはなかったけれど。
ある時、友達の一人が一緒に遊べない日があった。
僕ともう一人は「いつもと違うことをしよう!」ということで、普段の遊び場よりもっと上に登ってみることにした。
それなりに整備された道からあまり離れないように登っていくと、木が少し減って、ゴツゴツした岩が覗いている斜面を見つけた。
そこには、岩に紛れて『両手サイズのツルツルした丸い石』がそこら中に転がっていた。
僕たち二人はその丸い石を遠くに投げて遊んだ。
とても楽しかった。
そのうち飽きて山を下りる時に、その丸い石を僕と友達で一つずつ持って帰ろうとした。
麓まで下りて、さあ帰ろう!という時に、同級生の山倉(仮名)がやって来た。
誰も来ない場所と思っていたので驚いたが、山倉は普段から仲の良い奴だったので、僕たちは笑顔で声をかけた。
けれど、山倉は僕たちが自転車のかごに入れていた石を見るなり、もの凄い怖い顔で「それ山に戻して来い!」と怒りだした。
山倉は普段は大人っぽくて落ち着いた奴で、こんな激しい感情を見せることなんて一度もなかったので、僕たちはとても驚いた。
理由はわからなかったけれど、山倉が言うなら・・・と、僕たちは石を元の場所に戻しに行くことにした。
走って山を登って岩場に着いたけれど、せっかくの石を持って帰れないのがなんだか悔しくなり、斜面の岩におもいっきり石を投げつけた。
友達も同じようにしていた。
そして、その石は鈍い音を立てて砕けた。
少しだけスッキリした僕たちは麓で待つ山倉の所まで戻り、一緒に家路に着いた。
その間も、なぜか山倉はずっと怖い顔をしていた。
僕と友達はなんだか気まずくなってしまい、それ以降はその山に行かなくなった。
ただ、その時にいなかったもう一人の友達はずっと行きたがっていたけれど。
そんなことから数年が経ち、つい先日のこと。
中学校の同窓会があり、そこで山倉と話す機会があった。
ちなみに、僕と山倉は同じ中学に進み、他の友達二人は別の中学へ。
そこでふと、あの頃のことを思い出して聞いてみた。
すると山倉は渋い顔をして、「あーあったあった。お前ら笑顔であんなことするから怖かったわ」と言う。
僕が「あんなことって何だ?ただ丸い石を拾って来ただけだろ?」と言うと、しばらくびっくりした顔をした後に、ケラケラと笑い始めてこう言った。
「なんだ、石を拾ったつもりだったのか?アレ、小さいお地蔵さんの頭だったぞ。自転車のかご一杯に入れてたから、てっきりお前らが壊して持って来たんだと思ってさ、めちゃくちゃ怖かったわ」
あの時の山倉は、怒っていたのではなく、怖がっていたんだそうだ。
たまたま顔を合わせなかったからお互い気づいていなかったけれど、山の麓は山倉の夕方の散歩ルートだったそうで、僕たちの遊び場のすぐ近くだった。
普段は人も見かけない散歩道に、自転車のかご一杯に地蔵の頭を詰め込んで、笑顔で話しかけて来るクラスメートがいる。
そんな光景を目にすれば、誰だって怖くなって当然だ。
山倉はこうも言った。
「お地蔵さんの顔もさ、普通は笑顔だったり目を閉じて優しい顔だったりするじゃん?でもお前らが拾ってたアレ、半分目を開けてこっちを睨んでるみたいな顔でさ、ほんと怖かったわ」
そんな話をしていたところで、同窓会はお開きになった。
ただあの時、僕たちは石を一つずつしか拾っていなくて自転車のかご一杯に入れていないことや、何度思い返しても石はツルツルで地蔵の顔なんてなかったことなどは、あえて山倉には言わなかった。
(終)