遊園地のような所で遊んだはずなのに
これは、もう30年以上前に体験した話です。
当時小学5年生くらいだった私は、同級生のタカシ君と休日に買い物へ行く約束をしました。※名前は仮名
普段は電車に乗る機会がほとんどなかったので、タカシ君に連れて行ってもらう感じで最寄り駅から7つ先の駅で降りました。
その駅周辺はそこそこ拓(ひら)けていてデパートのような所もあるので、大抵の地元の人はその駅まで出てそこで買い物をしています。
ですが、タカシ君も駅の構内をあまり覚えていなかったようで、南口に出るはずのところを北口に出てしまいました。
私はその場所へは車でしか行ったことがなく、周辺の道は全くわからないので、タカシ君の後をただ付いて行くだけでした。
目の前には大きなビルが乱立していて、不安からキョロキョロと周囲を眺めていると、タカシ君が急に立ち止まってこう言いました。
「あれ、面白そうじゃねえ?」
指を差した先には『遊園地のようなもの』がありました。
その遊園地のような所には小さな観覧車や乗り物があって、ピエロや小動物がいました。
まるでおもちゃみたいなその遊園地に、買い物も忘れて私たちは夢中になりました。
乗り物に乗ったり、ピエロが渡してくれた手のひらに乗るサイズの小さなお猿さんなど、本当に楽しかったです。
でもふと気付くと、お金は1円も払っていないうえに、しかも勝手に遊んでいる・・・。
そんな状況に、両親に怒られるのではという不安が大きくなってきました。
私はタカシ君に買い物のことを思い出させてから、ピエロに別れを告げて元来た道を戻りました。
すっかり遅くなってしまい、結局その日は買い物もせずに帰宅しましたが、電車の中では二人で興奮気味に遊園地での話をしていました。
帰宅してから、年の離れた姉にだけコッソリと遊園地のことを話しました。
でも姉は首を捻るばかりでした。
姉が言うには、「そんなものはその駅にない」ということでした。
私は「絶対にある」、姉は「絶対にない」と互いに譲らず、次の休日にもう一度その場所へ行くことにしました。
そして当日、そんなものはありませんでした。
「たぶんここに・・・」という場所は見つけましたが、そこは工事中でとても大きな区画で囲いがしてあり、それも随分と前から工事中とのことでした。
姉には賭けに負けて500円を渡したうえに、バカにされて散々でした。
でも、タカシ君はちゃんと覚えていたし、もちろん私も覚えているので、まったく納得いかない記憶(体験)でもあります。
それから十数年が経ったある時に、あの小さな猿がピグミーマーモセットという非常に珍しい猿だったことや、大人になってから見た洋画の移動遊園地を見て、「もしかしてこれだったのかな?」と考えるようになりました。
ただ、当時その場所でそういった催しをしていた事実がないので、結局あれは何だったんだろう・・・となってしまうのです。
でも不思議と怖くはなく、懐かしいような楽しい記憶として残っています。
あとがき
大人になって振り返ってみると、やっぱりおかしなことばかりなのです。
あの時に見た遊園地のような所は、ビルに囲まれた場所にポッカリと空いた広場みたいな感じで存在して、賑やかな音楽がかかっていて、ロバやウサギや猿などがいて。
一緒に行ったタカシ君とは数年前にSNSで繋がり、当時のことを話してみたのですが、やっぱりタカシ君もはっきりと記憶が残っていて、「でも大人になった今考えると、あんなのありえないし不思議だね」で、いつも会話が終わります。
タカシ君も私も、その遊園地に受けた印象が今思えば昔の海外のような雰囲気で同じなので、その点でも不思議です。
ただ、またあの場所へ行ってみたいような気もしています。
(終)
あ〜行ってみたいわ