その石に彫られたものを読んでしまうと
これは、石じじいの話です。
じじいが子供の頃、『怖いことが書いてある石』というものが山中にあったそうです。
それはとてつもなく怖い石。
それを読んで発狂した人もいました。
日本中がひっくり返るような内容だったとも。
それは平たい石に彫られていた碑のようなもので、ずいぶん古い物のようだったそうです。
その石は、いつ頃からあり、何の目的で誰が作り、いつ頃から知られるようになったのかは不明でした。
じじいは見なかったそうです。
多くの人に読まれると危険だということで、3人で破壊することになりました。
そのような石があるということは伏せられていた為に少人数しか知らなかったのですが、少しづつ存在が漏れてきていました。
じじいの友人(子供)はどうしてもそれを見たくて、ある日の夜中に家族が寝静まった時に、一人で見に行ったそうです。
その夜は月夜だったそうですが、子供が一人で山に登るのはかなりの度胸と言えるでしょう。
その子は無事に帰ってきたそうですが、翌日じじいたちが何が書かれていたのか尋ねてみても、「暗ろうてよう見えんかった」と言うのです。
その子は昼間にも再度その石のある場所を訪れたそうですが、「漢字ばっかりでようわからんかった」と言うのです。
しかし、その子がこっそり見たということが大人たちに知られて、「これは一刻の猶予もならん」ということで、石はすぐに破壊されることになりました。
叩き割り、岩屑を谷に捨てたそうです。
破壊作業にあたった3人はしばらく後に、一人は老衰で死亡、一人は病死、一人は事故死と、みんな亡くなってしまいました。
因果関係はわかりませんが、どれもよくある普通の死でしょう。
そして、そんな石を2回も見たじじいの勇敢な友人については、出征して戦死したそうです。
後日談
戦後、ある人が山菜採りだか猟だかの為に山に入った時に、「その石を見つけた」という話があったそうです。
その人は当時では珍しかったカメラで、その碑の写真を撮影したということでした。
じじいはその写真を見ませんでしたが、見た人によると、「よく撮れていた」とのことです。
じじい曰く、「何が彫られとったんかのう?たまげるような内容やったゆうんやけど。まあ、あの石は山の色んなとこに出てくるのかもしれんのう。読んでもらうんを待っとるんよ」と。
ちなみに、その写真の所在や撮影者のその後は一切わかりません。
ただどうやら、見たら死ぬ、という存在ではないようです。
(終)