退院前に行方不明になった患者さん
これは、病院での心霊体験談。
私は病棟看護師だけれど、霊感の類はあまりない。
それでも視界の隅に何かが見えることはよくあるし、たまに堪らなく怖いと感じる日がある。
前に勤めていた病院は、病室が縦並びに2列のコの字型になっていて、突き当たりが窓という作りだった。
夜中の巡回中に背後にゾワっと感じたら、眼前の窓ガラスに映ることが時々あった。
ある日、入院患者さんが退院前のリハーサルで一泊帰宅をしている時に、行方不明になってしまった。
捜索願いを出して、病院側も職員がご家族と一緒に探していた。
そして急遽、夜勤を私が交代してすることになったんだけれど、その日は急変があったりでとにかく忙しく、交代したことを後悔していた。
深夜3時過ぎ、急変した患者さんの家族が来られ、相方の看護師が対応する。
その間、私は一人で巡回と併せて、処置が必要な人のところを回っていた。
行方不明になった患者さんの部屋は4人部屋。
その部屋での処置はなかったけれど、巡回をする時は患者さん一人ひとりに異変がないかを見る。
その時、行方不明の患者さんのベッドの布団が、なぜかこんもりとしていた。
当時は認知症の人が入院していたので潜り込んだかと思い、布団を触った瞬間、行方不明の患者さんの声で「寒い・・・」と聞こえた。
その瞬間、私はさぶいぼが手先から全身に広がり、凍りそうなくらい体が冷えた。
声にならない声で悲鳴をあげながらもステーションに戻り、背後が怖くて壁に背中を張り付けて相方が戻るのを待っていると、病棟師長から電話があった。
行方不明の患者さんが海で見つかった、との連絡だった。
それ以降、夜勤をするとその患者さんが背後に現れるようになった。
そして、その患者さんがいる時はとにかく寒くなり、真夏でもカーディガンを羽織るくらいにまで。
結局、仕事に集中できないし、あの病室だけはきちんと対応する自信はないしで、異動願いを出して異動させてもらったけれど、変わらず現れるのでその病院を辞めた。
その後に勤めた先では現れることはなかったけれど、やっぱり堪らなく怖い日というのはあり、夜勤中の相方が休憩に入って一人きりになると、いつも壁に背中を張り付けていた。
そんなこんなで、今はもう病院では働いていない。
(終)