病室の窓に映る人影
私が病気で入院中に体験した怪奇な出来事をお話します。
当時、私が居たのは『無菌室』という部屋です。
6畳程の広さの個室で、トイレや簡易シャワーが壁に取り付けられた『綺麗な牢屋』といった印象の所です。(悪い例えで病院の方ごめんなさい)
細菌の進入を防ぐ為、医師や看護師さんであってもほとんど入室する事がなく、面会者との会話もインターホンで行うという孤独な場所でした。
患者は1日中一人で過ごさねばならず、出来る事といえばテレビを観たり、ガスで滅菌済みの本や、逢魔が時物語を読んだりするだけです。
※逢魔が時物語
雲谷斎さんが長年やっている怪談のメルマガ、ウェブサイトの名称。
えっ、見えたんですか?実は・・・
部屋の東側の壁には大きな窓があり、夜になると美しい都会の夜景が楽しめます。
その反対側にあたる西側の壁は、透明のビニール製のカーテンで仕切られ、その向こうは廊下になっています。
その晩、私はテレビを観ていました。
その時、私の視界にはテレビの脇にある窓も入っていました。
そして、その窓には反対側の廊下が映り込んでいました。
透明のビニール越しに見える廊下は、少し歪み、ぼやけて見えます。
と、その時、映り込んだ廊下を『人影』が通り過ぎて行ったのが見えたのです。
廊下は医者や看護師さんがよく通るので気にしなかったのですが、実は私が居る部屋は廊下の一番奥の部屋で、その影が歩いて行った方向は行き止まりになっているのです。
私は慌てて振り向きましたが、そこには誰も居ませんでした。
何かの見間違いだろうと思って気にしなったのですが、その後2回同じ事があったのです。
そして3回目の時、さすがに私も「またか」と思って窓に映った影をじっくり見たのですが、人相こそ分からないものの、頭や体の輪郭がはっきりと分かり、見間違いとは思えなかったのです。
振り向きましたが、やはり誰も居ませんでした。
私は奇妙に思い、看護師さんに聞いてみました。
すると、「えっ、見えたんですか?凄い。実は・・・」と、次の様な話を語ってくれたのです。
この無菌室が出来る前、ここは一般病棟だったそうです。
廊下は今と同じ位置にあったのですが、今と違って行き止まりはなく、先まで続いていたのだそうです。
そして、その当時は廊下を歩く影が何度も目撃されたそうなのです。
それもやはり直接見えるのではなく、窓に映るかたちで。
この話にすっかり気を良くした私は、カメラを手元に置いて再び影が通るのを今か今かと待ち続けたのですが、その後は二度と影を見ることはありませんでした。
(終)