早く寝ないと山から彼奴らがくるよ
これは、友人の話。
子供の頃に夜更かしをしていると、よくこう言って叱られたという。
「早く寝ないと山からモッコとムッコが下りてくるよ。彼奴ら怖いからね。捕まったら皮剥かれて食べられちゃうよ」
子供心に恐ろしいモノだと認識していたのだが、どんな姿をしているのだろうと、長いあいだ疑問に思っていた。
先日里帰りした折、顔見知りのおばさんと世間話をしていると、モッコとムッコのことが話題に上った。
「どんな物の怪なんだろうって、小さい時から不思議なんですよ」
彼が何の気なしにそう漏らしたところ、おばさんはあっけらかんと答えた。
「あぁ、モッコかい。蒙古のことだよ」
「蒙古って、元寇の時に攻めてきた、あの蒙古のことですか?」
驚いて問い返すと、改めて教えてくれた。
「そう、その蒙古。こっちのお国言葉で訛っちゃってモッコになったのね。ちなみにムッコっていうのは剥くって言葉が変形したんだって学校の先生に聞いたことがあるわ。蒙古が皮を剥くで、モッコとムッコになったってわけ」
彼は呆れたような顔で、この話をしてくれた。
「うちの実家って東北の山奥なんだぜ?そんな遠い場所で妖怪になるなんて、奴らどんな暴れ方をしたんだろうな」
(終)