夜の山で聞こえてきた奇妙な2つの音
これは、友人の話。
一人で夏山を縦走していた時のこと。
真夜中、何かの物音に目を覚まされた。
ぽちゃん、ぽちゃん。
水音のようだ。
深そうな水溜りに、小石が落ちているような、そんな音。
「水場はかなり離れてるのに、ここまで音が聞こえるものか?」
寝惚けながら考えていると、音はいきなりガサッという乾いたものに変わった。
膝まである草を掻き分けているかのような、そんな音。
何かがガサガサと草を踏みながら、このテントの周りを巡っている…。
息を殺して様子を伺っているうち、やがて音は遠ざかって行った。
そしてまた、ぽちゃんと水が跳ねる音に変化する。
唐突に音は聞こえなくなった。
夜が明けるまで、それ以上とても眠れなかったという。
明るくなってから、辺りを散策してみた。
テントから少し離れた窪みで、古い石組みの筒が見つかった。
「井戸?こんな山の中に?」
ふと嫌な想像が頭を過ぎる。
昨晩、何かがここから這い上がって来て、テント周りをうろついた。
そしてまたこの中に戻って、水の中に沈んでいった…。
恐る恐る中を覗いてみた。
赤茶けた地肌が底の方に見える。
どう見ても、ずっと昔に枯れた井戸だった。
「俺があの夜に聞いたのは、一体何の音だったんだろう?」
今でもそれが不思議なのだという。
(終)