最期の一杯ってやつかもしれんな
これは、友人の心霊体験話。
彼の家は山中にあるのだが、そのすぐ横を10年ほど前に高速道路が開通したという。
他方面へ繋がるインターチェンジが近いとかで、交通量は結構多い。
だが、見通しは良いのに、何故か交通事故が多発しているそうだ。
ある晩、そろそろ寝ようかと支度していると、土間の方で気配がした。
様子を見に行くと、見たこともない女性が一人、水瓶から手掬いで水を飲んでいた。
「誰だ?」
問い掛けてみたが、返事はない。
水を飲み終えると、女性はスッと開いたままの戸口から出て行った。
やけに生気のない表情が気になってしまい、後を追いかける。
しかし、間髪入れず外に飛び出たが、戸口の外には誰の姿も見えなかった。
何処へ隠れたかと訝しんでいると、救急車のサイレンが聞こえてきた。
どうやら下の方で事故があったらしい。
尚も女性のことが気になっていると、屋敷奥から父が出て来て「どうした?」と聞いてきた。
事情を説明すると、こんなことを言う。
「その女性は多分、今の事故で死んだばかりの人だろう。
この下の事故で死んだ者は、何故かここの水瓶の水を飲みに来るみたいなんだ。
最期の一杯ってやつかもしれんな」
父は数年前に、あることから事故と水瓶の関連に気が付いてしまったらしい。
「だから今じゃ使ってないこの水瓶も、水は切らさないよう注意してる」と。
まぁ確かに、一番近い民家だが…。
以来、彼も水瓶の水が減っていると、継ぎ足すようになったのだという。
(終)