薄暗くなった姉の部屋の中に

家

 

これは、バイトの先輩から聞いた話。

 

先輩は20代の女性で、彼女には弟がいる。

 

その弟に小さい頃、変な癖みたいなものがあったとか。

 

先輩も弟も小学生の頃から同じ塾に行っており、日が暮れかけた頃に一緒に帰ってくることが多かった。

 

ところがある時期から、最寄りのバス停からまっすぐ帰ろうとすると、自宅のすぐそばの空き家の前で弟が「怖い怖い」と言って嫌がるようになった。

 

空き家と言っても、わりと綺麗に手入れされた家。

 

自宅もすぐそこに見えている。

 

しかし弟は、首を振ってどうしても引き返そうとする。

 

だから仕方なくいつも住宅地を少し遠回りして、別の方向から家に帰っていた。

 

そんな頃から十数年が経った今では先輩も弟も家を出て、それぞれ一人暮らしをしている。

 

そして最近、姉弟ともに実家へ帰った時に、その空き家のことをふと思い出した先輩は弟に聞いてみたとのこと。

 

弟は言い難そうにしながら、「昔のことだし気のせいかもしれないんだけど」と前置きして話し始めた。

 

いわく、件の空き家の前を通り過ぎると、ちょうど自宅の姉の部屋の窓が見えてくるという。

 

当時、姉と一緒に帰る時によく、その薄暗い姉の部屋の中に知らない女が立っているのが見えていたそうだ。

 

弟は、「いや、子供の見間違いだったと思うんだけど」と取り繕っていたそうだが、それを聞いてからはもう、先輩は実家の元自室には近づけなくなったとか。

 

(終)

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