山の中にあった死にたくなる場所
これは、石じじいから聞いた話です。
ある山の中に、『死にたくなる場所』があったそうです。
春先の清々しい晴れの日に山を歩いていたじじいは、急に死にたくなったと言います。
地面から風が吹いたように感じたそうですが、その直後、急に気分がふさぎ込んでしまい、色々と過去の嫌な思い出が浮かび、絶望感が湧き上がったと。
「いい年をした自分は、こんな石探しのようなバカなことをして世間様に顔向けができない恥ずかしい人間で、死んだ親もこんな息子では成仏できない…。ほらほら、あの時に朝鮮人に言った言葉が後であんなことを…」
ロープを持っていたので、それで首を括ろうとしたようでした。
その時、突然「キィッーッ!」という鳴き声のようなものが聞こえて、真っ黒な鳥が近くを飛び去りました。
それで我に返ったそうです。
気づいた時に、その鳥が鳴いたのだと思った、とも。
ふと手元を見ると、ロープを“あの輪っかの形”にして持って立っていました。
すると、再び気分がふさぎ込み始めたそうです。
じじいは慌てて山の中を走りました。
走れば大丈夫だろう、そう思ったと。
しかし、大汗をかいて走っていたじじいは、何かに躓いて転げ倒れました。
ただその時にはもう、死にたいと思う気持ちは全くなくなっていて、かえって強い幸福感に包まれていたそうです。
近くの村にたどり着き、話を聞いてみたところ、その山の中では昔から何人も自殺した人がいた、ということでした。
「自分の本当の心の中が出たんかのう?別に悲観しとったわけじゃないけんどな。そういう場所やったんかねえ。そうよ、その後にな、すごいお腹が空いてな、ようけ飯食うたで」
じじいは笑いながらそう言って、この話を締め括りました。
参考
人に取り憑き首吊り自殺をさせると言われる妖怪
・くびれ鬼(縊鬼(いき))
・首吊らせ狸(化け狸)
※上記リンク先はいずれもWikipedia
(終)