四辻で待ち伏せする悪霊たち
これは、石じじいの話です。
じじいの故郷(私の故郷でもある)には、ミサキという悪霊の他に、『ドウロクジン』や『ホウカイ様』という存在があります。
これらも無縁仏で、ミサキと同じ存在です。
じじいがこんなことを言っていました。
「おやじらがな、道の四辻で「道の端のドウロクジン」言うて唱えよったい。それ何?言うて聞いたら、行き倒れのお遍路さんのことよ、って教えてくれたい」
ドウロクジンとは、“無縁仏のため家に帰れない人のことで、帰っても誰も祀ってくれない人の霊が道の四辻にウロウロしているもの”なのだそうです。※四辻(よつつじ)=十字路
四辻には、おにぎりなどの食べ物を供えます。
これは、その霊が餓鬼である、という認識があったからだと。
そして、四辻におにぎりが供えてあっても絶対に取ってはいけない、というのが親からの言いつけだったそうです。
太平洋戦争より遥か以前の話ですが。
ホウカイ様も同じような存在です。
うら盆に焚く松明をホウカイと呼んでいました。※盂蘭盆(うらぼん)=7月15日を中心に行う祖先の霊を祭る仏事
ちなみに葬式の帰りは、悪霊が家に付いてくる危険性のある時だったそうです。
「七人ミサキが憑いちょるかもしれん」と言って、体を箕で扇いでもらうことがあったそうです。※箕(み)=穀物の脱穀・選別・調整・運搬に使用される農具
また、外で具合が悪くなってしまった場合は、帰ってから家に入る直前に、同じように箕で扇いでもらう習わしもありました。
これは、七人ミサキがいる四辻を通ったからそれに取り憑かれたのだ、ということでした。
「犬神は取り憑くわ、ミサキは来るわ、ホウカイ様は四辻に待ち伏せしとるわ、油断できんかったで、昔わな。戦争があって、みんなおらんなったな」
じじいは笑いながら、そう言って話を締め括りました。
(終)