知ったら怖くて眠れなくなるでしょ
見たわけではないのですが、感じたことならあります。
京都の旅館に泊まった時、その部屋は『開かずの間』だったのです。
普段は貸さない部屋らしかったのですが、仕事上の都合で泊まりました。
部屋に入った時の第一印象は、なんか薄暗い部屋だなぁ、と。
夕食まで時間もあり疲れていたのもあって、仮眠を取ろうと押入れの戸を開けました。
でもそこには布団なんて入っていません。
あるはずの空間がないのです。
板が隙間なく貼られてあって、その上に御札が1枚貼ってありました。
それを見た瞬間、鳥肌が立ちました。
びっくりしてすぐ戸を閉め直しました。
さっきから感じていた嫌な空気の原因はこれだったんだ、と思いました。
そして一人でこの部屋に居るのは危ないと思い、同室の人を呼びに行きました。
その時は4人部屋でした。
この話を聞いて驚くかな?と思ったのですが、そんな様子もなく、平然としています。
私は、「どうして驚かないの?」と聞きました。
すると、「そんなことで驚いていたら仕事にならない」と言うのです。
仕事柄、全国を飛び回るのでよくあると言うのです。
ちなみに仕事は、旅行のガイドや添乗員です。
ホテルや旅館は、安く泊まるような業者には普段貸さない部屋を貸すのだそう。(もちろん全てがそうではありません)
納得できなかったのですが、部屋を替えてもらえるはずもなく、仕方がないので我慢して、その日の夜はその部屋で就寝することになりました。
ミーティングが終わったのが深夜1時頃。
わりと賑やかにやっていましたので、その頃にはあまり怖くなくなっていました。
お風呂に入って、みんなで布団に入ったのが2時過ぎでした。
そして部屋の明かりを消して、10分くらい経った時です。
みんなはもう寝息を立てていたのですが、私だけがその異変に気づきました。
最初のうちは何か聞こえるなぁという程度だったのですが、そのうちにハッキリとした音が聞こえてくるようになりました。
天井裏を誰かが歩いています。
私たちの寝ている上の辺りを、ぐるぐると回り歩いているのです。
しかも、一人の足音ではありません。
少しズレてもう一人歩いています。
喋りながら。
何を喋っているのかまでは聞き取れなかったのですが、男女が揉めているような感じでした。
怖くてみんなを起こそうと思い、部屋の明かりを点けました。
部屋が明るくなるのと同時に、音は止みました。
足音も話し声も。
隣の人を起こして、今あった出来事を話しました。
もちろん凄く驚くと思ったのです。
でも反応は違いました。
最初からいわゆる『出る部屋』だと知っていたのです。
「どうして教えてくれなかったの?」聞くと、「知ったら怖くて眠れなくなるでしょ」と言うのです。
どうやら、教えないことが親切だったようです。
聞くと、この旅館もこの部屋も初めてではないとか。
それに毎回出るそうです。
人によって音だけだったり見えたりもするそうですが。
結局、そのまま朝まで布団を頭から被って過ごしました。
もちろんほとんど眠れませんでした。
後日に聞いたことですが、あの部屋の押入れで悲しい事件があったそうです。
(終)