その女性は今も時々訪ねてくる
これは、知人から聞いた話。
知人の家には、昔から『幽霊』が出る。
時々、玄関から入ってくる喪服姿の中年の女性がいるそうだ。
彼女はひたひたと廊下を渡り、階段を上って二階へ消える。
最初は不審者かと思ったが、どうも違うらしい。
彼女が二階へ行くところは何度も目撃しているが、その後は忽然と消えてしまう。
そして、また忘れた頃に玄関から入ってくるという。
彼女の身体は一見するとそこにいるように見えるが、触れようとするとスッと通り抜ける。
そしてその後、決まって高熱を出す。
だから彼女が現れると家族全員が道を開けて、絶対に彼女の身体に触れないようにする。
こういう話には大抵なにかしらの因縁因果があったりするのだが、その家には特にそういうものはないらしい。
土地も建物も、一切瑕疵はないそうだ。
おかげで対処のしようがないと、知人の親は嘆いていた。
知人は一度、彼女の後を追いかけてみたことがあった。
彼女は階段を上るとひたひたと廊下を進んで、なんと知人の部屋へと入っていった。
そして押し入れを開けると下の段へと入り、ぴしゃりと襖を閉めた。
知人は恐る恐る押し入れを開けてみたが、彼女の姿はなかった。
「だから私、ずーっと押し入れが怖くって」
知人は、そう言って笑った。
「いつか押し入れから彼女が出てきたらどうしようって、ひやひやしてるんですよ」
知人は今も、その家に住んでいる。
そして、女性は今も時々訪ねてくるという。
(終)