家賃が破格に安かったアパートにて
これは、大学4年の時の体験話。
当時入居していたのは、住宅街にある学生向けのアパート。
設備と築年数のわりに“家賃が破格に安い”ため、大学3年の春に移ってきた所だった。
その頃は単位もほぼ取り終わっていて、週に2日学校に出れば問題なく卒業できる感じだった。
時間を持て余していた私は、徹夜でゲームをしたり、本を読んだり、ネットをしたりとダラけた日が続いていた。
夏のある日のこと。
冷房が嫌いな私は、常に部屋の窓は全開。
昼間は網戸だけ。
夜は網戸とカーテンを引いている。
その夜もいつものように網戸とカーテンを引いて、8畳間のリビングに寝っころがりながらゲームに熱中していた。
そして3時過ぎくらいだったと思う。
夏の盛りで暑いのは当然だが、なんだかジトっとした嫌な空気だった。
ふと気づくと、変な音が聞こえてくる。
音というより声だろうか。
テレビやラジオのボリュームを絞った感じの、やけに遠くから聞こえてくるような掠れた声。
始めはゲームの中の音かと思ったが、耳を澄ましてみるとどうも違うらしい。
音は外から聞こえてきていた。
窓はテレビとちょうど対角の位置。
ゲームをしている私は、窓を背後にして座っていた。
正直ビビリな私。
どうせ酔っ払いかなんかだろうと思いつつも、後ろを振り向けずにいた。
でも、その時に見てしまった。
テレビ画面の中、ゲームの背景の黒い部分、そこにちょうど窓が映り込んでいた。
引いたカーテンとカーテンの狭い隙間。
そこに、縦に連なるようにして幾つもの『顔』があった。
一様に無表情で、目があるはずの部分は真っ黒。
恐怖のあまり意識が飛んだらしい。
実際には手近にあったタオルケットに頭から突っ込んで震えていたら、いつの間にかウトウトしてしまったのだと思う。
気づけば朝で、テレビ画面はそのままだった。
タオルケットを被る直前までで止まっているゲーム画面を見て、「あれは夢じゃなかったんだなぁ」と再確認すると、ますます怖くなった。
それ以来、迷惑顔の友達のところを渡り歩いて、極力一人で家に居ないようにしながら卒業までを過ごした。
ただ今でも、テレビやディスプレイの黒い部分に映り込む背景は、怖くて凝視できない。
それに、そのアパートを建てる前の土地が何だったのかもわからない。
(終)