部屋に上がって振り返るといるよ
学校から1駅の距離で、狭苦しい学生アパートと変わらない家賃とくれば、お察しいただける通りの事が起こるわけで…。
親友は、それを承知でそのアパートに決めた。
これは、そのアパートで起きていた心霊話。
アパートに到着して部屋に上がると、日当たりも良く、手入れも行き届いていて、おかしなところは全くない。
私自身の霊感が皆無なこともあり、寒気がするとか頭が重くなるなどということもなく、居心地の良い部屋だという印象しかなかった。
だから、事が起きるのは夜だろうと思った。
荷物を置き、トイレを借りようとして部屋を出て、ふと気づいた。
玄関の上がり口に、中学生の男の子が背中を向けて座っている。
ちょうど靴ひもを結ぶ時に腰かけるみたいに自然で、私は親友の弟だと思い「こんにちは」と声をかけた。
それくらい自然だった。
当然、彼は振り向かず、ただ背を向けて座っている。
私は彼が何なのか気づいたが、怖くはなかった。
用を足し、部屋に戻る時も、彼は同じ所に座っていた。
親友にそれを告げたところ、「玄関を入る時は居ないけど、部屋に上がって振り返るといるよ」だそうで。
親友が借りた部屋自体は事故物件ではない。
元々このアパートに住んでいたのは両親と中学生の息子さんの3人家族で、息子さんが学校へ行く途中で交通事故で亡くなり、程なくご両親も引っ越されたという。
『出る』とわかっていても挨拶してしまうくらい、肩を叩いたら体温を感じそうなくらい自然な姿で、「息子さんが帰って来ていますよ」と教えてあげたいが、ご両親の行方は全くわからない。
私が親友のところにご厄介になっている間、いつでも彼はいた。
親友は一度留年し、5年間あのアパートで暮らしたが無事に大学を卒業した。
たまに会ってお酒を飲むと、「あの子どうしてるだろうね」という話題になる。
ちなみにそのアパートは素敵なマンションに建て替えられ、格安の部屋はもうない。
(終)