壊そうとしたら誰かが死ぬ廃病院
中学生の時、通学途中にウェブでも出てくる有名な心霊スポットがあった。
そこは廃病院で雰囲気はあるが、ただ怖い話が伝わっているだけの感じがしていた。
曰く、『壊そうとしたら誰かが死ぬ』というもの。
むしろ敷地に入る前にある門看板の、入ったりゴミを捨てたりすると300万円の罰金です、という文章の方が怖かった。
毎日の通学で見慣れてきた頃、入口のガラスに“雷龍”とスプレーで書いてあるのが見えた。
その時は度胸あるな、くらいにしか思っていなかったが、その日の帰り道、門の前で警察と大人たち数人が何か話していた。
どうやら、廃病院の中で人が死んでいたようだ。
おじさんが「電気は流れてないんやけどねぇ」と言っているのが聞こえ、直感で感電死したのかなと思った。
結局、遺体は近所の高校生のもので、周辺は一時騒ぎになり、門に有刺鉄線が付けられた。
同時に、雷龍の文字は消されていた。
時が過ぎ、俺は高校生になり、廃病院の前を通らなくなった。
ただ、悪い友達が増えたせいか、高架下の壁に落書きをするようになった。
ある日、何人かで「廃病院に行こうぜ」となり、場所も知っていた俺は得意げに案内して裏の塀を乗り越えて入った。
しばらく探索しても何もなく、飽きて帰ろうとした時、タツヤが「証を残すか」と言ってスプレーを取り出した。※仮名
その瞬間、中学生の時の出来事を思い出して嫌な気はしたが、皆がもう塀を登っていたこともあって無視することに。
帰り道、タツヤは車に轢かれ、皆の目の前で死んでしまった。
高校を卒業後、県外に就職した俺は、地元には長期連休でたまに帰る程度になった。
帰省したある時、ふと思い出して件の場所を見に行くと、門だけを残して更地になっていた。
更地を見ながら、こんなことを思った。
廃病院を壊す時に何人が死んだんだろう、と。
そして、タツヤはどんな落書きをしたんだろう、と。
(終)