深夜の山道で遭遇した一人の男性
とある地方に、
スキーへ行った時の話です。
車で遠征したのですが
地図を見ながら、
こっちから行った方が
近いんじゃないの?
ってことで、
雪も降ってなかったので、
山越えルートを選択して
行くことにしました。
いきなり一車線の狭い山道・・・
友人がいきなり心細そうに。
「これ、完全に失敗じゃない?」
「でもまぁ、地図じゃ
こっちの方が近いんだよね。
峠越えればすぐだよ、
すぐ」
俺も失敗だったかなぁ
と思いつつも、
雪も全く無かったし、
Uターンする場所すら
なかったので、
山道をどんどん
進んで行きました。
鬱蒼と茂る木々、
全く民家すら見当たらない山道。
軽快な音楽が流れる
車内とは裏腹に、
俺たち二人は無言のまま、
深夜の山道をひたすら黙々と
走り抜けようとしていた。
民家も見当たらないまま
一時間近く走り、
ようやく峠に差し掛かろうとした
その時、
「あれ、あそこに誰かいるじゃん」
友人の声に、
俺も人影に気付いた。
スピードを緩め
近づいていくと、
その人影はどうやら、
俺たちに向かって
手を振っているように見えた。
歳の頃は30辺りだろうか。
こちらに手を振り、
ニコニコ笑っていた。
車を停め、
その男性の横につける。
窓を「コンコン」と
ノックしてきたので、
さすがに寒かったから
全開にはせず、
声が聞こえる数センチだけ、
開けるだけにしておいた。
「いや~、参っちゃいましたよ。
そこで車が止まってしまってね。
助けてもらえませんか?」
なぜか、俺と友人は
沈黙したまま。
その男性は数センチ開けた
窓の隙間に指を突っ込んでくる。
「開けてくださいよ、ねぇ~」
ドアはロックしてあるのだが、
外からガチャガチャと
開けようとする音が。
「ねぇ、開けてよ~」
笑ってる顔とは裏腹に、
ガチャガチャと
ドアを開けようとする音は、
激しさを増していた。
「開けてよ、開けてよ、開けてよ」
さらに男性はドアを開けようと
必死になっていた。
「車、今すぐ出せ!
ドア開けるなよ!」
友人がそう言うと、
俺は迷いなくアクセルを踏み、
その男性を置いたまま走り去った。
ようやく民家が見え始めた頃、
黙り込んでいた友人が
ボソリと言った。
「なぁ、気が付いてただろ・・・
お前も。
あの人、こんな真冬なのに
夏服だったろ。
それにさ、こんな寒いのに
息も白くなかった。
あれ、生きてる人じゃないよ」
(終)