生死の狭間で体験した事

それは、ある蒸し暑い

夏の日のことでした。

 

なぜか、身体の節々が痛む。

 

「あの程度のドライブで

疲れが溜まるとはなぁ。

 

俺も歳かな・・・」

 

などと思いながら、

 

遅い朝食を摂ろうと

ダイニングに足を向けた。

 

その時、今度は

頭も痛くなってきた。

 

ガンガン響く。

 

これでは食事どころではないと思い、

 

自分の部屋に戻って

少し眠ることにした。

 

ウトウトし始めた頃だろうか。

 

「おーい、たけしーっ」

 

と、誰かが耳元で

俺の名前を呼んでる。

 

目を開けると、

 

そこには親父とおふくろ、

妹が涙ぐみながら、

 

俺の顔を覗き込んでいた。

 

俺は身体中を包帯で

グルグル巻きにされて、

 

病院のベッドの上に

横たわっていました。

 

そして、傍らにいた

白衣を着た医師らしき人物が、

 

俺に言った。

 

よく頑張りましたね。

峠は越えました。

 

もう大丈夫ですよ。

 

「えっ?」

 

俺は事態が飲み込めなかったが、

 

記憶の断片を辿りながら、

事の次第に思い至った。

 

「そうだ、俺は事故ったんだった・・・」

 

三日後、

 

何とか喋られるようになった俺は、

傍にいた看護婦に話し掛けた。

 

「あのー、すいません。

家族の者に会いたいんですけど」

 

すると、その看護婦は

急に顔を曇らせたかと思うと、

 

やがて、意を決したように

僕に告げた。

 

「あなたのご家族は・・・

全員亡くなられました」

 

「・・・?」

 

「あなたとご家族は、

四人でドライブ中に事故に遭い、

 

あなただけが助かったのです。

 

他の皆さんは残念ながら・・・」

 

俺が見た親父やおふくろ、

妹の姿は一体・・・。

 

(終)

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