連鎖する死の呪い 5/5

店を出て歩きながら、

俺はBを説得する方法を考えていた。

 

歩きながらBに聞いてみた。

 

「そもそも何年付き合ってきたんだよ」

 

「これだけ長く付き合ってきたのに

何で今、妊娠するの?」

 

「避妊はしてたんだろ」

 

俺自身が疑問に思ったことだった。

 

さらに、聞きづらい事だとは思ったが、

俺は続けた。

 

「出来たのがわかったって事は、

あいつが入院する前にやったって事だよな」

 

本当に酷い聞き方だ。

でもBは答えてくれた。

 

「今まではちゃんと避妊してたよ」

 

Bは続けた。

 

Bの話を聞いていくと、

俺は寒気を覚えた。

 

4ヶ月くらい前に、

変な夢を見たんだそうだ。

 

3日間、夢は続いた。

 

最初に見た夢は、

会った事もない男性で、

 

何度も同じように、

「すまない、すまない」

と言い続けていたらしい。

 

会ったことのない人なんだけど、

何となくAに似ていたそうだ。

 

次に見た夢は、

亡くなる前に紹介されていた

次男だった。

 

同じように「ごめんね」と、

何度も言われた。

 

そして最後に見た夢は、

A本人だった。

 

何度も振り返りながら、

手を振っていたそうだ。

 

その夢を見て嫌な予感がしたらしく、

結婚を急がなければと感じたらしい。

 

以前から、結婚の話になると

Aは消極的だったらしく、

 

いきなり結婚話をしても

変わらないだろうと思い、

 

それなら妊娠してしまおうと

考えたそうだ。

 

でも、妊娠したのがわかる前に、

Aは入院してしまった。

 

Bは、こうも言っていた。

 

「あの夢は、この事を

伝えたかったんだと思う。

 

だから、子供が出来たことを知れば、

必ず治ってくれるよ」

 

頭がおかしくなりそうだった。

 

「今日はもう遅いから

明日また話そう」

 

と、Bを家に帰した。

 

その日は一晩中、

寝ることは出来なかった。

 

何が最良なんだろう。

 

自問自答を繰り返して

出た答えは、

 

Bに呪いの話を告げることだった。

 

翌日は、Bを俺の家に呼んで

話すことにした。

 

こんな話、

外では出来るわけもない。

 

身体のことも心配だったし。

 

Bと話をし、

全てを教えてあげた。

 

何人もの人が死に、そしてAの家族が

亡くなり続けていることも。

 

夢の話や、細かい事も

全て話した。

 

Bはため息をつきながら、

 

「言えないよね、呪いなんて」

 

そう言った。

 

「それが結婚に踏み切れない

理由だったんだね」

 

Bは泣いていた。

俺はBに言った。

 

「あいつが呪いを信じてる以上、

妊娠のことがわかれば100パーセント

堕ろせと言ってくるだろう。

もしBが産む覚悟なら、絶対に言うな」

 

「あの人の性格を考えれば

言えないよね。でも堕ろさないよ」

 

涙をこらえながら言うBを見て、

俺は泣けてきた。

 

その後に俺たち二人は、

これからのことを話し合った。

 

人の人生をこれだけ真剣に考えたのは、

俺自身初めてのことだったかもしれない。

 

Aの病が奇跡的に治ってくれれば、

どれだけいいだろう。

 

それから俺は、

暇があればAの元に見舞いに行き、

Bともよく話をした。

 

Aの病状は、

一向に良くはならなかった。

 

2ヶ月も経たないうちに、

Aは危篤状態に陥った。

 

持ち直すことなく、

Aは他界してしまった。

 

俺が駆けつけた時には、

すでにAの体から温もりは消えていた。

 

Aは、自分が亡くなった後のことを

よく考えていてくれた。

 

Bに保険のことや遺産のこと、

俺とBに葬儀のお願いや、

後の処分方法など。

 

Bに宛てた手紙。

俺とBに宛てた手紙。

 

そして、俺に宛てた手紙。

 

俺とBに宛てた手紙には、

もの凄く感謝の込められたものだった。

 

Bに宛てた手紙も、

同じようなものだったらしい。

 

ただ、俺個人に宛てた手紙は

違っていた。

 

その手紙の内容は、

Bに見せられるようなものではなかった。

 

Aが亡くなって半年ほど経った頃、

もうすぐBは出産する。

 

無事に生まれてきてほしい。

何事も無く成長してほしい。

 

ひたすらそう願うしかない。

 

俺は、Aの残した遺言で、

今も悩んでいる。

 

なんでこんな物を遺したんだ。

 

Aの残した手紙の中には、

俺とBの婚姻届が同封されていた。

 

そして、Aの遺した手紙。

 

『Bのお腹にいる子供は、

俺の子供ではない。お前の子供だ。

だからお前は責任を取って、

Bを幸せにしろ』

 

Aは、子供が出来ていたことに

気づいていたのだ。

 

だからって、

強引に俺の子供にするなよ。

 

お前なりに考えたことだろう。

 

きっと、呪いの事で頭が一杯に

なっていたんんだろう。

 

お前の気持ちは良くわかる。

でもこれはないだろ。

 

最後にAは、こう綴っていた。

 

『頼むからBを幸せにしてくれ。

頼むからこの願いを叶えてくれ。

もし叶えてくれなければお前を呪う』

 

Aの身の周りで起きたことは、

偶然だと俺は思いたい。

 

Aが呪われる必要は、何一つ

無かったはずなんだから。

 

もしかしたら、これは俺自身が

招いたのかもしれない。

 

今までしてきたことの罰なのかな。

 

(終)

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