連鎖する死の呪い 2/5

翌日、学校に向かう途中で恐る恐る

その木を確認すると、

 

確かに無数の傷と大きな釘が1本、

刺さっていたそうだ。

 

子供の頃は、ただ単純に

怖かっただけなんだけど、

 

今思えばあのおばさんには、

同情するところはかなりある。

 

その家の主人はもの凄い酒乱で、

毎晩のように飲んでは暴れていた。

 

あの当時は、精神的にかなり

参っていたんだろう。

 

Aは、そう言いながら話を続けた。

 

それから数ヶ月が過ぎ、

最初の事件が起こった。

 

下校途中にAと3人の子供達が、

あの家の大きな木の下に、 

人が倒れているのを発見した。

 

Aら4人で最初は寝てるのかとも

思ったらしい。

 

それでも気になって、

他の子が親を呼んで確認させたところ、 

すぐに救急車が呼ばれた。

 

倒れていたのは、その家の

主人だったそうだ。

 

すでに息はなく、死因は

心臓発作との事だった。

 

近所の人の知らせで、

農作業に出掛けていたおばさんも

呼び出され、

 

すぐに病院に向かって行った。

 

子供だったAは震えていたそうだ。

 

死体を見た恐怖と、あの晩の

おばさんの奇妙な行動が重なって、

余計に怖かったらしい。

 

それから、おばさんは人が変わったように

明るくなっていた。

 

前とは比べられない程に。

 

でも、おばさんの笑顔は、

長くは続かなかった。

 

その家には2人の息子がいたが、

2人ともその家には居なかった。

 

次男は人柄もよく真面目で、

結婚をして家を構えていたのだが、

 

長男は父親に似て酒乱がたたり、

定職にも就けなかった。

 

父親が死に、

母親の面倒を見るという名目で、

長男は家に戻って来た。

 

おばさんにとっては、今まで以上に

辛い日々になっていったのだそうだ。

 

昼間から酒を飲んでは

母親に暴力を振るい、

 

近所から何度注意されても、

直る事は無かった。

 

母親に対する暴力に、

次男も何度も抗議に来ていたようだ。

 

数日が過ぎた晩、

Aは家族で食事をしていた。

 

すると玄関を激しく叩き、

父親を呼ぶ声がする。

 

声の主は、隣に住む

お姉さんだった。

 

「向こうの木の下に人が倒れている」

 

そう言って、お姉さんが震えていた。

すぐに父親が確認に向かった。

 

そして確認し戻ると救急車を呼び、

子供達に一歩も家を出るなと言い残して、

また出て行った。

 

しばらくして救急車が来て、

騒ぎは大きくなり始めた。

 

窓越しに確認すると、

今度はパトカーまで来ていたそうだ。

 

その騒ぎは一晩中続いた。

 

翌日の朝、

殺人事件が起こったことを知った。

 

殺されたのは、

あの家の長男だった。

 

クワで頭部を滅多打ちにしての

殺害だった。

 

滅多打ちにした場所は

家の裏だったらしいが、

 

最後の力を振り絞って、人の目に触れる

あの大きな木の下まで辿り着いて、

 

そこで息絶えたらしい。

 

家に居たおばさんが、

自分がやったと証言したため、

おばさんは警察に連れて行かれたが、

 

翌日の昼間に次男が出頭して来て、

おばさんは家に帰された。

 

地元の新聞では、

大きく報道されたそうだ。

 

次男の判決は、

さほど重くはならなかった。

 

動機が母親を助けるためだったのと、 

周りの証言や、もしかしたら

嘆願書も出ててたかもしれないらしく、

 

刑は思いのほか軽く済んだそうだ。

 

次男の刑が確定したその日、

おばさんは家の木で首を吊って自殺した。

 

Aは学校に居たため、 

事件が起こったことは家に帰るまで

知らなかったらしい。

 

その家では、2年ほどの間に3人も、

人が死んでしまった。

 

あの事件が起こった後は、

その家には誰も居ないはずなのに、

 

それ以来、その家の前を通るのを止めて、

大周りして家に帰るのを選んだそうだ。

 

自宅の玄関からも見える家なのに。

 

事件から5年くらいが過ぎた頃、

あの家の次男は刑期を終えて戻って来た。

 

近所の家を、礼を言いながら

謝罪して周っていた。

 

Aの家にも訪ね来た。

 

父親が対応して、

「苦しかったね。これから頑張るんだよ」

 

そう、声をかけていた。

 

元からの次男の性格をよく知る

近所の人達は、優しかった。

 

次男も一生懸命に働き、

以前の暮らしを取り戻そうとしていた。

 

次男の妻も真面目で、

主人が逮捕された後も別れることなく、

 

帰って来る日を待ちながら、

家を守り続けていた。

 

2年後、そんな2人に子供が出来た。

近所の人たちはみんな喜んでいた。

 

生まれてくるまでは・・・。

 

産まれてきたのは男の子だった。

でもその子は心臓に障害を持っていた。

 

それからの次男は、

 

その子の手術のためだけに、

今まで以上に働いた。

 

子供を助けるために。

 

それでも間に合わなかった・・・。

 

男の子は生後半年で、

この世を去ってしまった。

 

それから2ヶ月後、

奥さんは焼身自殺をしてしまった。

 

後を追うように、次男は

あの木で首吊り自殺をした。

 

近所中に重い空気が流れて、

やがて良くない噂が流れ始めた。

 

あの木があると、

これからも良くないことが

起こるのではないか。

 

木を切り倒した方がいいのでは。

 

みんなが口々に、

木のせいにし始めていた。

 

それでも誰も、

木を切ろうとはしなかった。

 

しばらくして、自殺したおばさんの

遠縁にあたるという男2人がやって来て、

 

「自分たちがこの木を処分します」 

と言ってくれた。

 

念のためにと、

2人は御祓いをしてもらい、

 

それからチェーンソーを使って

あっさりと、切り倒してくれた。

 

かなり大きな木だったこともあり、 

倒した後に細かくするのに

時間がかかってしまい、

 

根の部分は後日にする、

ということだった。

 

(続く)連鎖する死の呪い 3/5へ

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