誰も居ない部屋の録音テープから
ある朝、洋子(仮名)は
ラジカセの留守録機能をセットした。
夕方にFMで放送される番組を、
留守中に録っておこうと思ったのだ。
その夜、
彼女はアパートに帰ってきてから
早速テープを聞こうと、
巻き戻して再生した。
ところが、
肝心の番組が録れていない。
原因は、すぐに分かった。
ファンクションスイッチをFMチューナーでなく、
外部録音にしたまま予約をしていたのだ。
人の居ないアパートを、
ずっと録音し続けていたのだ。
がっかりしてスイッチを切ろうとした時、
洋子はスピーカーから聞こえる
妙な声に気付いて、
停止ボタンから指を離した。
それは、か細い女の子の
声のように聞こえた。
留守の部屋に
声なんかするわけない。
不思議に思いながら聞いてみると、
どうやら声は二つ。
どちらも小声だが、やっぱり
幼い少女のような感じがする。
聞き取りにくいのだが、
こんな会話だったそうだ。
『もっと綺麗にすればいいのにね』
『本当よね。綺麗にすればいいのにね』
彼女は最初、それがなんのことだか
分からなかったそうだ。
じっと耳を立てて聞き入ってると、
会話は更に続いた。
『ずっとこのままなのかしらね』
『このままじゃ嫌よね』
『もっと綺麗にすればいいのにね』
『本当よね』
彼女は自分の顔から徐々に
血の気が引いていくのを感じた。
ゆっくりと後ろを振り返る。
部屋の隅、壁に付けるように
大きな洋服ダンスが置いてある。
その上に、
何年か前に友達から貰った、
2体の少女人形がある。
タンスの縁から両足を出すように座り、
人形はお互いの顔を向き合っていた。
長い時間放置されていたせいか、
二つとも埃まみれだった。
煤けたような顔をしたまま、
それらは互いに見つめ合っていたそうだ。
(終)