山中の夜のドライブで乗せてしまったもの

運転

 

私が学生の時、

実際に経験した話です。

 

その当時に付き合っていた

ある女友達は、

 

ちょっと不思議な人でした。

 

弟さんはすでに亡くなって

いるのですが、

 

彼女の家に遊びに行くと、

 

どこからかマンドリンの音が

聞こて来るのです。

 

すると、

 

「あぁ、またあの子が

弾いているね」

 

と彼女もお母さんも、

 

当たり前のことのように

言うのです。

 

その頃、私は頻繁に、

奇妙な夢を見ていました。

 

彼女に似た丸い顔をした

男の子が、

 

十字架に掛かっている

という夢でした。

 

その話をすると彼女は、

 

「弟は白血病で死んだの。

 

薬の副作用で顔が

丸くなっていった。

 

それは私の弟だ・・・」

 

と言って泣くのです。

 

そのうち、

夜になると私の家でも、

 

何かが侵入して来るような

気配が感じられるようになり、

 

彼女に御札をもらって、

部屋の四隅に張っていました。

 

でも、まだ若かったせいか、

 

そういうことも別段

異常なことだとは思わずに、

 

日々を過ごしていました。

 

大学2回生の夏に、

鳥取まで遊びに行った時、

 

そんなことを言っていられない

目に遭いました。

 

みんなで車に乗り、

 

山を越える時には

夜になっていました。

 

山中の夜のドライブというだけで

十分怖い気もしていたのですが、

 

山の途中で車がガタガタ言い出し、

止まってしまいました。

 

「え、こんなところで・・・

どうしよう?」

 

と思ったのも束の間、

 

彼女が運転席で、

 

「誰かを乗せてしまったみたい・・・」

 

と言いました。

 

「え、うそ?」

 

と私はパニック状態に

陥りました。

 

私は助手席に乗って

いたのですが、

 

怖くて後ろを見ることが

出来ません。

 

「どこか行きたい所がある

みたいだから送ってあげる」

 

彼女がそう言った途端、

車がまた動き出し、

 

しばらく走った後、

 

ガタガタと言って

再び止まりました。

 

「ここみたいね・・・」

 

「そんな落ち着いた声で

怖いこと言わないでよ」

 

という私の言葉も聞かず、

彼女は冷静に、

 

「降りて下さい・・・」

 

とドアを開けて言いました。

 

私はもう、

 

『神様仏様、お願いですから

降りてもらって下さい・・・』

 

と念じるだけ。

 

必死の願いが通じたのか、

 

車の後部座席から何か、

 

白いものが飛ぶような速さで

前方の一角に消えました。

 

彼女がライトで照らすと、

 

そこにはお地蔵さんが

あったのです。

 

「ここに来たかったのね・・・」

 

と彼女。

 

私はもう何も言えず、

 

とにかく山を越えて無事目的地に

着くことばかりを祈っていました。

 

鳥取では砂丘を見て海で泳ぎ、

平穏に過ごしました。

 

帰りは怖いことも特になく、

無事に家に到着。

 

彼女とはその後、

疎遠になりました。

 

それ以後、

 

私の夢に男の子が現れることも

ありませんでした。

 

(終)

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