同い年の従兄弟と山で遭った恐怖 2/2

山ヒル

前回までの話はこちら

俺は客間や和室を横切りながら、大人達の姿を求めつつ、見えない怪物から逃げ続けた。

 

もちろん、自分の足跡であることは自明なのだが、なぜかその時の俺はそれに気付かずパニックを加速させた。

 

ペタペタと小さな血の足跡をあちこちに残しながら、家中を走り回った。

 

じいちゃんの家は広い。

 

だが、流石に騒ぎを聞きつけ、親戚のおじさんとおばさんが姿を見せた。

 

親戚のおばさんにしがみ付き、おじさんが「ライター、ライター」と叫んでいると、玄関辺りで母親が二度目の悲鳴を上げた。

 

騒然とする親戚に囲まれながら、血で汚れた廊下を抜けると、おろおろする俺の母親と玄関で泣き叫ぶ従兄弟がいた。

 

血まみれで山ヒルを体中に沢山ぶら下げた従兄弟の姿に、地元在住の親戚たちもさすがにどよめいた。

 

おじさん達とじいちゃんがライターで山ヒルを炙ると、あれほどしがみ付いていた山ヒルが面白いように落ちる。

 

従兄弟はシャツを脱がされ全裸で玄関前に立ち、大人達によって全身の山ヒルを徹底的に駆除された。

 

山ヒルは一匹残らず落とされた。

 

落ちた山ヒルは大人達に踏み潰され、沸騰したお湯で洗い流された。

 

だが、俺の足も従兄弟の体からもジワジワと出血は続いている。

 

薬を塗っても、なかなか血は止まらない。

 

すぐに救急車が呼ばれ、俺と従兄弟、そしてそれぞれの父親が付き添って病院へ向かった。

 

山ヒルに噛まれると、痛みは無いが血液の凝固作用を弱くする物質が分泌され、血が止まりにくくなる。

 

その後、うんざりするような痒みがしばらく続くのだ。

 

これは、薬を塗ってもらったらすぐに治まった。

 

俺は大したことなかったが、従兄弟は噛まれた箇所が多く、小さい体から大量に吸い取られたことも考慮して、点滴をしながら一晩様子見で入院する事となった。

 

従兄弟の父親も付き添うことに。

 

病室の従兄弟はなぜか包帯まみれで、顔色も心なしか青白かった。

 

「ごめんな・・・」

 

その理由もはっきりしないまま、俺は頭を下げた。

 

「紙、ありがとうな」

 

あのポケットティッシュの事だろう。

 

病室を出たら、なぜか警官が二人立っていた。

 

誰が呼んだのかは知らない。

 

そして俺は、虫を捕りに山に入ったこと、従兄弟が野糞をしたこと、従兄弟が山ヒルまみれになったこと、家に帰ったら謎の存在に追いかけられたこと、大人達が従兄弟を裸にして山ヒルを駆除したことまで詳しく話した。

 

次の日、じいちゃんや近所の人らが草刈り機片手に集まって、裏山の草を一斉に刈っていた。

 

その後、農薬みたいなものを撒いていた。

 

変な匂いがじいちゃんの家まで届いていた。

 

結局、従兄弟は二週間ほど入院したそうだ。

 

血が止まらないのもあるが、感染など色々と検査したようだ。

 

田舎から都会に戻った俺も、母親に連れて行かれた病院で検査した。

 

その時は、感染よりも注射が嫌だった。

 

翌年、従兄弟と再会しても虫捕りをする気にはならず、当然裏山にも近づかなかった。

 

その後じいちゃんは亡くなり、誰も住まなくなった家をその従兄弟が引き継いだ。

 

そして仕事の傍らに、山ヒルの研究をしていると聞いた。

 

あの経験を生かして、山ヒルの害から人々を守ろうとしているのだろう。

 

・・・と思ったら、父親いわく、その辺りで山ヒルの被害が急増しているという。

 

正確な数など分からないが、実感として従兄弟が移り住んでから山ヒルが増え始めたらしい。

 

あいつ、何の研究をしているのだろうか。

 

(終)

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