ドアを開ける時、絶対に正面は見ない
ドアを開ける時、絶対に正面は見ない。
いや、見れない。
なぜなら、幼少期にこんな体験をしたからだ。
お盆の頃、庭で花火をやることになった。
興奮した俺は、我先にと玄関のドアを勢いよく開けた。
すると、数メートル先の空中には『生首』が浮いていた。
俺は動けなくなった。
その生首はお婆さんで、全体的に灰色っぽく見えた。
無表情でじっと俺を見つめている。
しかも、ゆっくりと近付いて来る。
俺は、ただただ怖くて動けない。
その時、背後から母の叫び声が聞こえた。
しかし、変わらず生首はこちらを見ている。
すると、母が怒鳴りながらドアを閉めた。
結局、花火は中止になり、泣いている母と俺を父が慰めてくれた記憶がある。
母の話によると、どうやら生首のお婆さんは数年前に亡くなっていて、町内でも変人扱いされて嫌われていたようだ。
なぜ母が怒鳴りながらドアを閉めたのか。
それは、お婆さんがまだ生きていた頃に母とトラブルがあったからだ。
母が赤ん坊の俺をベビーカーに乗せて歩いていると、お婆さんに声をかけられた。
「赤ん坊をよく見せろ」と。
すると、お婆さんは俺の顔を平手打ちしたり引っ張ったりしだした。
さらに、「この赤ん坊は悪い運気を運ぶ」的な事を言って拉致しようとしたらしい。
その後も数回、町内で会うと「見せろ見せろ」としつこく言われたようだ。
だから母は、お婆さんがお盆の時期にあの世から俺もしくは自分に会いに来たのだと思って「もう来るな!」と怒鳴ったのだ。
それ以来、生首を見たことはない。
けれど、ふとした瞬間に見えた気がする時もある。
特に、もし今ドアを開けていたら・・・と思うと。
それに、俺は悪運を運ぶ存在なのか?と考えてしまう時もある。
(終)