ある神職一族の本家と分家の事件 3/3

注連縄

 

2.

黒い球体のようなものは

何だったのか?

 

本家が代々封じ続けているもの。

 

正体は分からないが、

それは非常に力を持っており、

 

その力の一端に触れた者は、

治癒不可能な心身喪失状態に陥る。

 

それは祟り神などと違って

対象は無差別で、

 

ただそこに存在するというだけで

人を狂わせる。

 

影響範囲は広範で、

 

少なくともZ神社がある町を中心に、

その周囲の町にも及ぶ。

 

3.

いつからそれを封じているのか?

 

少なくとも、1500年以上前から

封じている。

 

元々、人の住めない

呪われた土地とされていたが、

 

良質の鉱山があることが分かり、

 

時の朝廷は土地開発を

進めようとしたが、

 

例の被害が多発した。

 

そこで、

 

中央から力を持った一柱の

神と巫覡の一族を遣わし、

 

それを封じることにした。

 

(そんな土地さっさと放棄して

別の鉱山を探せば良いのに

 

と思うかも知れないが、

 

その当時の製銅や

製鉄というものは、

 

国力を左右するほど重要で、

 

しかもその土地は、

とある理由で好立地だったため、

 

放棄するにはあまりに惜しかった

からだと聞いている)

 

封を担った巫覡の一族は、

その土地に腰を落ち着け、

 

代々その封を司るようになった。

 

時は流れて、

Z神社は戦乱で消失し、

 

その後、長きに渡って、

 

本家が封じるための儀式だけは

行っていたが、

 

長らく神社が無かったことの影響か、

大正期に被害が出るようになった。

 

そこで、

Z神社を再建して、

 

封を強化し、

今に至っている。

 

4.

それは完全に封印は出来るか?

 

分からないが、

 

儀式をした際に

 

黒い球状のものに巻かれた

注連縄が増えることがある。

 

その注連縄が完全に球を

覆い隠した時に、

 

封印は完全なものに

なるかも知れない。

 

5.

ここ以外にも、

そういう土地はあるのか?

 

極少数だろうが、

存在すると思われる。

 

次代が國學院に通ってた頃、

自分と似たように、

 

強力に加護を受けていると

思しき生徒がいたそうだ。

 

多分、その生徒の一族も、

 

何か厄介なものを封じるために

そのような加護を受けている

 

のではないか?

 

6.

何故自分は心身喪失状態に

ならずに済んだのか?

 

分家とはいえ、

 

一族の血を引いている

ことによるものかと。

 

それとも、

 

100年以上ぶりに触れた人間

ということで、

 

人について何かを探ろうとして、

 

壊れないように細心の注意を払って

扱ってくれただけなのか、

 

よく分からない。

 

運が良かったとしか言えない。

 

Aさんは、一通り

話し終えてから、

 

A「と、まぁ、

 

こんな眉唾な話だから

信じる必要はないけど、

 

ただそれのせいで、

知っての通り、

 

私の右腕は今も動かない

ままなんだ。

 

骨折自体はとうの昔に完治して

未だにリハビリを続けてるが、

 

全く動く気配がない。

 

思うにアレが、

 

『イッポン・・・ツナガッタ』

 

って言ったのは、

 

腕一本繋がったっていう

意味だったんだろうと思う。

 

だから、

 

この右腕を動かすことが

出来るのはアレだけで、

 

もし、仮に

封が弱まることがあれば、

 

私の意志とは無関係に

 

動き出すんじゃないかと

思ってる。

 

本家の人達が

封を強化してるから、

 

私が生きてる間には、

 

間違ってもそんなことは

起きないと思うけどね」

 

と笑いながら話していた。

 

この話を聞いて、

 

自分には完全に眉唾とも思えない

心当たりがあったりする。

 

例の本家の人間なんだが、

 

一族皆が人格者ばかりだからと

いうのもあるのだろうが、

 

地元では物凄く信頼されており、

 

何があっても失礼をしてはいけないと、

婆さんから良く聞かされていた。

 

小学校の時、

 

それぞれ別の友人グループだったので

接点はなかったが、

 

本家の長男(Bとする)

同級生だった。

 

6年生の時、

 

余所から転校してきた奴(Cとする)

いたのだが、

 

そいつが事あるごとに、

Bに突っかかるようになったらしい。

 

Bは性格が良くて、

周りからの人気もあったから、

 

(顔がイケメンの部類だったのも

あるかも知れないが・・・)

 

それが気に食わなかった

のかも知れない。

 

ある時、

Cの家に雷が落ちて全焼し、

 

両親は無事だったが、

 

Cが亡くなったと全校集会で

校長から聞かされた。

 

後で知ったんだが、

 

その前日、

CはBを痛めつけようとして、

 

階段から突き落とした

らしいんだな。

 

武道の心得もあってか、

 

幸いBは軽い捻挫程度で

済んだらしい。

 

そのCが住んでいた

借家の場所は、

 

ウチからチャリで3分程度の

近所なんだが、

 

そこの地主の爺さんが

雷の話を聞いてビビったらしく、

 

駐車場とかにもせずに

今も更地のままなんだ。

 

このBの話を思い出した時、

心底寒気がした。

 

雷は偶然だと思いたいが・・・。

 

(終)

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