ただの鍛冶屋にしては妙に羽振りがいい隣家
これは、大正生まれの祖母から聞いた話。
昔は不思議な事がよくあった、という。
祖母が子供の頃、実家の隣家はただの鍛冶屋にしては妙に羽振りがよく、何かと因業な性格の一家だったので『悪い事をして儲けている』と噂があったらしい。
※因業(いんごう)
頑固で物わかりの悪いさま。また、人に対する仕打ちが情け容赦もなくひどいさま。
田舎特有の妬みもあったのだろうが・・・。
その家には祖母より4歳年長の末娘がおり、よく遊んでもらっていたそうだが、ある時から全く姿を見せなくなった。
色の白い綺麗な子だったので、女郎に売ったとか色々と噂になったが、本当のことは分からなかった。
ある日、祖母が隣家との境で遊んでいると、鍛冶場の2階の窓から隣家の末娘が覗いていた。
あ、なんだやっぱり家に居たんだ、と声をかけた。
すると娘は顔を突き出したのだが、なんだか変だった。
首が不自然に細く長い。
窓の狭い隙間からひゅるっと首を伸ばして、目をきょろきょろさせている。
嫌な感じがした祖母は、慌てて家に入った。
後で分かったが、末娘は親戚に預けられていたそうだが、預けられた次の日に首を括って死んだという。
心の病気だったらしい。
その一家は今でも隣に住んでいるが、先日母が電話をした時、おじさん(娘の甥)が入院中とのことだった。
見舞いに行ったところ、「帰り際に病院の窓から首を突き出し、目をきょろきょろさせてこちらを見ていて気味が悪かった」と言っていた。
なんだかよく分からないが、ゾッとした。
(終)