もてなしされた町のお祭りに参加したら 3/4
思わず神輿から手を離してしまい、
地面に手を突く。
神輿が落ちると思い、
上を見上げると、
傍まで寄った大人たちが
落ちないように支えててくれたようで、
神輿は宙に浮かんでいる。
別の大人の手が俺を起こし、
神輿のところに立たせると、
神輿を支えていてくれた手が無くなり、
神輿が両肩に食い込む。
後ろを見る余裕もないが、
耳には・・・
「遅いからさぁ、
ぶつかっちゃうんだよねぇ」
という声が聞こえてくる。
一瞬、ムカっとしたが、
今は早くこの神輿を下ろしたい
一心だったので、
また歩き始めようとした
その瞬間を狙って、
『ドン』とやられた。
同じようにつんのめり、
両手が地面に付きそうに
なったところで、
大人の手に支えられる。
神輿も宙に浮いている。
また起こされて神輿を担ぐ。
またすぐに『ドン』。
また転びそうになると、
大人の手が支え・・・
また神輿を担ぐ・・・
明らかに異常だ。
周りの声も「頑張れ」
とかいう応援じゃなく、
「早く立て」
「早く歩け」
などの怒声に
変わってきている。
半分泣きそうになりながら、
神輿を担ぐ三人。
周りの大人の中には、
竹を縦に裂いた
竹刀のようなもので、
ケツの辺りを叩いてくる
人までいる。
もう嫌だと思って
逃げようとしても、
周りの大人によって
引き摺られて戻される。
おかしい。
何か、おかしい。
そう思い、
ふと近くにいた大人の顔を見て、
びっくりした。
すでに笑顔ではなかった。
まるで敵を見るかのような目で、
俺たち三人を睨みつけていた。
周りの他の大人たちも
同じだった。
皆が皆、
凄い形相で睨んでいる。
子供心にこれはまずいと思い、
何とか逃げ出そうと考えるが、
それを見越したように
後ろから『ドン』とやられて、
また転んでしまった。
荒々しい手に立たされ、
無理矢理に神輿を担がされる。
そのわずかな間で
周りを見渡すと、
俺たち三人の神輿の周りに、
大人が群がっている。
進行方向の右手には、
いつもひな壇があるので
大人は少なめだ。
大人のほとんどは、
左手と正面に集まっている。
真後ろには大きな神輿が
迫っている。
神輿を担がされる前に、
YとNの顔を見た。
目が合った。
軽く頷くと、
神輿を担がされて大人たちの手が
無くなった瞬間に、
右側に神輿をわざと倒した。
よろけて倒れたと思った大人が、
手を出して神輿を支えようとする。
俺たち三人はその隙を見て、
ひな壇の方に駆け出した。
後ろからは大人の声で、
「捕まえろ!」
という叫び声が
上がっていたが、
その頃には一心不乱に
笛や太鼓の音を鳴らす、
大人の脇をすり抜けていた。
闇雲に走って
川沿いの道まで来ると、
そのままの勢いで
下流に向かって走り出した。
どのくらい走ったか
分からないが、
息が切れるまで走り続けて、
もう走れないところまで
走ったところで
後ろを振り返ると、
懐中電灯の光らしきものが
10個以上見える。
その光景に寒気を感じて、
三人で無理矢理に走り出した。
少し走ると、
もう息は続かない。
もう走れないと思った時に、
目の前に自分たちの
自転車が見えた。
三人で何も言わずに飛び乗り、
ひたすらペダルを漕ぎ続けた。
怖くてもう、
後ろを振り向く余裕もない。
必死だった。
自分の知ってる道に出ても
喋る余裕がなくて、
ひたすらペダルを漕ぎ続け、
一番近い俺の家に
三人とも転がり込んだ。
玄関から入るなり、
安心して泣き出す三人。
怒りまくっていた母親も父親も
呆気に取られていたと思う。
そりゃそうだ。
やっと帰って来たと思ったら、
赤い法被を着て、
傷だらけで泣き喚く息子を見たら、
ビックリするに決まってる。
一泣きして、
ようやく事情聴取。
もちろん、
他の二人の親も呼ばれた。
今日起きたことを
包み隠さず話した。
川を遡った事、
山の麓の町で
親切にしてもらったけど、
重い神輿を担がされたこと。
年上におにいさんと呼ばれたり、
町人の態度がおかしくなり、
凄い目で睨まれたこと・・・。
親たちは皆、
頭の中が「?」だったに
違いない。
でも、その中で、
Nのお父さんが聞いてきた。
「その町の家の屋根の色、
全部青じゃなかったか?」
俺たちは皆、
「そうそう」
と頷いた。
Nのお父さんは、
「やっぱりか・・・」
と言って、
説明を始めた。
Nのお父さんによると、
その地域は昔から、
差別の強いというよりは
仲間意識が強い地域で、
みんなが同じ家に住み、
同じように暮らしていくという、
社会主義みたいな考えがある
地域らしいんだ。
そんな村の昔話で、
鬼の一家が出た話ってのが
あるらしい。