お供え花が絶えない縁起の悪い橋 2/3

お供え花

 

翌朝に母親から、

 

「あの橋にはもう行くな」

 

と言われた。

 

母ちゃん霊感持ちか?と意外に思いつつ、

理由を訊くと、

 

「あの橋の近所の○○さんがね、

 

昨夜、橋の上で何かが燃えてるのを

見たんだって。

 

放火魔みたいなアタマのおかしい

人の仕業かも知れないから、

 

もう一人で行くのやめなさい」

 

(その燃えていた「何か」って・・・)

 

俺は昨日見かけた、

枯れた花束のことを母親に話した。

 

(流石にバケモノのことは言えなかった)

 

「じゃあ、その花束が燃えてた?

でもそれだと話がおかしくなるんだよね」

 

母親が付近住民の話を整理した限りでは、

 

炎は昨夜、数時間に渡って、

 

橋の上で燃え続けているのが

目撃されていたそうだ。

 

枯れた花がそんなに長時間も

燃え続けるものだろうか?

 

疑問に思った俺は、

 

その日の学校帰りにもう一度、

橋まで行ってみることにした。

 

流石に一人では怖くて無理だ。

 

部活仲間を一人巻き添えにして、

通学用の自転車を二人乗りで現場へ向かった。

 

橋に到着。

 

時間帯は前日に来た時とほぼ同じで、

辺りは薄暗い。

 

「おっ、おい!

あんま、それ以上進むな!」

 

運転する友人に呼びかけ、

 

橋の中間点から20メートルほど離れた所で、

自転車を止めさせる。

 

いきなり接近するのは危険だ。

 

「ハイハイ、言われなくたって、

俺こんな自殺スポット来たくねぇよ」

 

元来、ビビリ屋の友人である。

 

「悪いねぇ(笑)

 

でさ、あそこの辺で

何かが燃えてたんだと思う。

 

何か見える?」

 

ポイントを指差す俺。

 

薄暗い闇に目を凝らす友人と俺。

 

いつの間にか風が吹き始めた。

 

「あの中間点?

何か落ちてんじゃん!

 

うわっ、キモッ!

何、あの白いの!?」

 

A4くらいの大きさの白い紙だろうか。

 

橋の歩道に沿って、

何枚も並べて置かれているようだ・・・

 

不思議である。

 

風に吹かれてはためいているのに、

その場にとどまって飛ばされない紙の列。

 

思わず歩み寄っていく俺と友人。

 

(・・・真っ白な・・・紙・・・?)

 

昨日見た花束の包み紙の

残骸のようにも見える。

 

紙から数メートルの位置まで近寄ると、

紙が飛ばされずにいる理由がわかった。

 

紙が釘で打ち付けてあった。

 

歩道の地面に。

 

地味に異様な光景・・・

 

俺と友人は愕然とした。

 

「・・・この紙、何か描いてね?」

 

友人が言う。

 

確かに、紙がはためく度に、

 

地面に伏せてある面には

何かが描いてあるのが見える。

 

ここまで来たら・・・

 

俺は思い切ってその紙を

釘から剥がし取り、

 

めくって裏を見た。

 

真っ赤な手形がそこにあった。

 

真っ白な紙の真ん中に、

 

赤ん坊ほどの小さな手形が

紅い色でべったりと映えており、

 

手形の中心部には、

釘が突き刺さっていた穴がある。

 

「・・・何これ?」

 

友人も既に他の何枚かの紙を、

釘から外して眺めていた。

 

「こっちも手形、あと足形、

・・・と変な絵だよ」

 

同じく小さな真っ赤な手形。

 

そして足形と・・・鳥だろうか?

 

紅色の単純な線で構成された、

古代壁画チックな絵であった。

 

その鳥の目の部分に釘穴の跡。

 

「アアァアァアアァア!!」

 

足元の欄干で、

女の頭部が絶叫していた。

 

欄干の隙間には、

 

異様に細長く変形した

青白い女の頭部が挟まって、

 

大口を開けて絶叫していた。

 

濡れた長髪に覆われ、

口以外は見えない。

 

歯が異様に白かった。

 

胴体が欄干の外側に、

だらりとぶら下がっている。

 

「ゥオアァァアアア!!?」

 

俺達も絶叫。

 

女の頭部は俺と友人の間に

出現したため、

 

俺と友人はそれぞれ正反対の方向に

全速力で逃げた。

 

自転車を放置で。

 

橋の端まで。

 

何者かが追って来る気配は無い。

 

叫び声もしない。

 

立ち止まって、

携帯で友人に電話をかける。

 

「逃げた!?

お前、無事逃げられた?」

 

息を荒げながら友人が応える。

 

『平気だけどさ!な、なによアレ!?

どうしよ!俺どうしよ!?』

 

友人は現場に自転車を

放置してきてしまったことと、

 

自宅が逃げた方向とは反対なので、

 

また橋を渡らねば帰れない事実に

テンパっていた。

 

携帯の時計は夜8時をまわっている。

 

橋の向こうは暗くて見えず、

友人の様子もわからない。

 

さらにこんな時に限って、

車が一台もやって来ない・・・

 

「わかった。

じゃあ、助け呼ぼう!

 

お前の自転車が壊れたとでも嘘ついて、

 

親でも友人でも呼び出して、

車で迎えに来てもらうんだ!

 

俺もやってみるから!」

 

嫌だ!こっち迎えに来てくれ!

と喚く友人をなだめ、

 

携帯の通話を一度切り、

母親にダイヤルした。

 

(続く)お供え花が絶えない縁起の悪い橋 3/3

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